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県大会で優勝したらしい。という話をジャッカル君から聞いた。ブン太は何も言ってくれなかった。


「言ってなかったっけ?」
「うん。聞いてない。」


休み時間中の廊下。B組の前で、ブン太は壁に寄り掛かっている。そして私が少し不機嫌そうな顔をすると、困ったように笑って、頭に手を載せた。


「悪かったって。」


その格好が様になっていて、私の心臓を揺らした。むっ、としていた気持ちもだんだん薄れていく。背後の廊下でざわめきがあった。きっと、本当に付き合ってる?、どうだろ?と、私とブン太を見て吟味しているんだろう。いいよ、そんなことしなくて。だって別に好き合って付き合ってる訳じゃないんだから。


「…次は関東大会だからよ、もち応援来るだろい?」


現金な奴。私は単純で馬鹿で。ブン太に笑顔を見せたかったのに、多分今にやけてる。やっぱり嬉しいもん。


「行く!蜂蜜レモン持ってく!」
「ばーか。甲子園じゃねえんだぜぃ。」
「えー?だってこないだ持ってったら、意外にも柳君と真田君に好評だったし。」
「いや、あれ実は裏で不評だったし。」
「えっ!嘘!」
「ウソ。」


少しむっとすると、ブン太はいつもの笑顔を見せた。久しぶりにテンポ良い会話をした気がする。でも幼なじみの時と、何も変わらない。あ、そっか。だってブン太の気持ちは前と変わってないんだから。でもそんな沈鬱な考えは、ブン太の太陽みたいな笑顔に吹き飛ばされた。


「…お楽しみのとこ悪いんだけど、苗字次体育だぜ?」


背後に掛けられた声にはっとする。そうだ、次体育だ!ありがとうジャッカル君!ブン太にじゃあね、と手を振ると、彼も振り返してくれた。少し頬が緩んだ。ジャッカル君と一緒にI組に戻った。彼は体育着を忘れたらしく、A組の柳生君に借りに来たらしい。並んで小走りで廊下を通る。


「なんか、良かったな。今の苗字、幸せそうだぜ。」
「え?」


ジャッカル君の言葉に思わず首を傾げる。


「丸井のことだよ。好きだったもんな。」
「……。」


実を言うとジャッカル君は私とブン太と同じ小学校に通っていた。途中でブラジルから転校して来たから、ブン太よりは断然付き合いが短い。でも私は分かりやすかったのか、ジャッカル君が周りをよく見ているのか、やっぱり知っていたようだ。それでも、ブン太の気持ちは知らないのかな?気付かないものかな?いや、きっと気付いてる。ブン太が本当に私のことを好きではないって、気付いてる。でも、じゃあ、私は気付かない振りをするよ。


「…幸せ。」
「そうか。」
「うん。だってブン太が私の彼氏だよ?幸せに決まってるじゃん。」


あはは、と言って軽く笑った。I組の教室直前で、私うまく笑えてる?


―――


2012.01.03


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