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昼休み。いつものように窓際の凜子の席周辺に集まってお弁当を開いた。同じB組の教室ではブン太と仁王君も二人でご飯を食べていて。たまに目が合って微笑んでくれる。それが少し、彼氏っぽくて、くすぐったくて、歯痒くもあった。そんな時だ。教室のドアが壊れるんじゃないかってくらい勢いよく開いた。


「名前さん!」


でかい声で私を呼ぶ切原君。しかもドアの所から。おかげで全員私と切原君を見ていた。余計なことするなよ、このワカメ。切原君は私の傍らで立ち止まり、座ったままの私の肩に両手を置き、勢いよく前後に揺らされた。ちょ、ご飯中。気持ち悪い。


「名前さん!丸井先輩と付き合ってるってマジなんスか!」


私の中でワカメに死刑宣告が出た。嫌がらせは受けずとも、冷たい視線を感じる生活が始まるのだ。別に隠していた訳じゃないけど、って言うか付き合ってるって胸を張って言えるような関係でもないけど。でも教室中がザワザワしている。


「えっ!ウソ!?」
「ちょっと、名前、聞いてないよ!」


鈴枝とまりなも私に問いただしてくる。向かいに座る凜子だけが驚きのあまり声も出ないようだ。そして私は座ったままワカメの足を蹴飛ばした。


「いてっ、何すんスか名前さん!」
「お前が何すんだ、ワカメ!」
「ちょ、ひどっ…」
「帰れ。海に帰れ、ワカメ。」


ひどい、と涙目になっているワカメを無視して意識をお弁当に戻した。ご飯を食べてても相変わらずワカメはうるさい。全部シカトをしていたけど、一つ聞き捨てならない言葉が。


「絶対別れた方がいいっスよ!」


私の手が止まった。だってその通りだから。ブン太は私に対して恋愛感情は全く持ってないし、これが“恋人ごっこ”ってことも分かってる。それは言いすぎかな。でも、本気で想い合っているカップルじゃないのは確か。いや、私は本気だけどさ。でもそれをワカメに言われると、凄く苦しくなった。その時だ。私の表情を見たのか、ブン太が何かをワカメに投げた。


「いって!って、ちょ、丸井先輩〜。」


床に転がったテニスボール。あ、これ地味に痛いのに。きっと後で幸村君か真田君に怒られるな。ワカメは私に飽きたのか、ブン太と仁王君に近寄った。


「痛いんスけど!」
「いや、今のはお前が悪いだろぃ。」


ガムを膨らませながらブン太は言っている。教室のざわめきが少し治まった。私は溜め息をついてからお弁当にありつく。ワカメが帰った後、皆から質問攻めにあったのは言うまでもない。


―――


あけおめ

2012.01.01


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