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泣いていたんだ。名前は小学校一二の頃、泣いてばっかりだった。その理由が俺だとは思わず、泣き虫な女だと思った。もう少し周りを見れるくらい大人だったら、名前への嫌がらせに気付いていたかもしれないのに。


でも、いつだったか、名前に泣きながら聞かれた。


『ブン太は、私のこと好き?』


この間聞かれたことと全く同じことを、実は小学校の時も聞かれてた。俺はまだまだガキだったし、当たり前だろいって即答だった。そしたら名前はピタッと泣き止んで、そっかって言って笑ったんだ。それから名前は泣かなくなった。


だから赤也の隣で泣いてる名前を見た時は焦った。まあ実際泣いてはなかったんだけどな。


珍しく名前は俺より遅かった。着替え終わった後も、部室前に名前は来なくて、俺は壁によっ掛かってぼーっとしてたんだ。その時、マネージャーが来て、四矢サイダーをくれた。自分で言うのもなんだけど、俺は他の奴らと違って面倒見がいいからマネージャーには懐かれてる自覚があった。


俺は名前に依存してる。赤也と二人でいるのを見た瞬間、そう思った。色々考えるのも面倒だし、俺は二人に駆け寄った。


「赤也に何かされたのか?」


悪者に仕立てる俺に文句を言う赤也。そういえばこいつも前に名前が美人だとか寝ぼけたこと言ってたな。そんなことを考えていると、名前は自転車のかごに入れてあった飲み物を赤也に差し出していた。それは先程俺がマネージャーにもらった物と同じだった。もしかして、と思った。


「馬鹿、よこせ。」


俺は咄嗟に赤也から缶ジュースを奪い取った。ちなみにさっきのジュースは壁に立てかけてあるラケバの片隅に置いてきた。


「ちょ、俺がもらったんスよ!」
「名前は俺のために買ってきたんだろい?他の奴にやるなよ。」


図星だった。何も言い返せない名前。可愛い奴。


「じゃ、帰ろうぜ。」


俺はさっきの飲み途中のジュースを捨て、名前のこぐ自転車の後ろで、名前にもらったジュースを飲んだ。


分かってる。俺が名前に依存してるってこと。あいつも自覚している。でも俺が名前に抱く好意に、恋愛感情は皆無だ。あいつの気持ちには応えられないのに、俺は勝手に名前を必要としてあいつを側においておこうとする。なんて最低なんだ。でも、今更あいつを手放すことなんて出来ない。名前の気持ちに甘えて、見ない振りをして。それでも名前は笑って俺の隣にいてくれるんだ。


―――


自虐ブン太
彼も彼なりに悩みます

2011.12.29


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