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凜子とジャッカル君に謝られ、私は凜子と仲直りできた。良かった。だって一日もしないうちに和解出来たから。それに、凜子はあのテニス部レギュラーと付き合ってるのに、嫌がらせは無いらしい。ブン太は、ジャッカルは一番モテないからなって言ってたけど、そうじゃない気がする。とりあえず、今回のことはブン太のおかげで解決したんだ。昼休みに来てくれなかったら今頃まだ悩んでいたに違いない。だから、たまには私が何か奢ってあげようと思って、ブン太の自転車を取りに行った後、自販機へ向かった。


何を買おう。確か昼休みは伊右衛門を飲んでた気がする。ブン太はお菓子ばっかり食べてるからすぐに喉が渇いて、部活前にはなくなってしまうらしい。部活ではもちろん、スポーツドリンクしか飲めないから、炭酸でも買ってやろうか。それとも紅茶花伝とか?自販機の前で唸っていると、背後で砂利を踏む音がした。


「丸井先輩、炭酸の方が喜ぶんじゃないっスか?」


黒髪もじゃもじゃが真後ろから手を伸ばし、勝手にボタンを押した。顔の横から伸びる手に、少しだけドキッとした。


「ちょっと、勝手に押さないでよ。」


でも私も炭酸を買おうと思ってたし、別にいいけど。自分用に紅茶花伝も買い、下から取り出して振り向くと、思ったより黒髪もじゃもじゃが近い。


「近いよ、君。」


黒髪もじゃもじゃの腕をすり抜け、側に置いておいたブン太の自転車のかごに缶を入れた。


「名前さん!俺、切原赤也っていうんス。赤也って呼んでください。」
「遠慮しとくー。」


自転車を押し、部室へ急いだ。が、切原君は歩行速度を合わせて隣に並ぶ。なんだ、こいつ。


「名前さんって丸井先輩の彼女なんスか?」
「違うよ、馬鹿。」
「あ、じゃあ俺なんてどうっスか?」
「年下興味ない。」
「頑張って年上になりますよ。」


思わず吹き出した。だって頑張って年上?この子案外面白い。この間私のこと美人さんって言ってくれたし、結構いい子かもしれない。


「君、部活は?終わったんじゃないの?」
「ボール吹っ飛ばしたんで回収に。」


ふーん、と返したところで部室が見えてきた。少し遅れてしまった。ブン太は既に部室の前の壁に寄り掛かって座っていた。待たせてしまった。そこで声を掛けようとした私の声に重なるように、女の子の声がブン太を呼んだ。


「丸井先輩っ、お疲れさまです!これ、差し入れです!」


新しいマネージャーの子だ。その手が差し出したのは、炭酸の缶ジュースだった。だって、同じ缶が自転車のかごにも入ってる。足が止まった。隣で切原君が怪訝そうに私を見ていた。


「おっ、マジ?」


缶を受け取り、笑顔をこぼすブン太。マネージャーの子はちゃっかりブン太の隣に腰を下ろした。私の知らない女の子と楽しげに話すブン太は、幼なじみのブン太じゃない。そうやって彼も、私じゃない誰かと恋をしていくのかな。


「…丸井先輩、すっげえ面倒見いいから、あいつも懐いちゃって…」


知ってるよ、そんなの。ブン太が学校では弟キャラなのに実は兄貴肌だってことくらい、小学校の頃から知ってる。切原君が何でも知ってるみたいに言わないでよ…!


「なっ、泣かないでくださいよっ!」
「泣いてないっ!馬鹿っ!」


さっき出会ったばかりの切原君に八つ当たりなんて最低だ。自分で自分が嫌になる。ブン太がこちらを見た。泣きそうな私を見て、慌てて駆け寄った。部室の前にマネージャー置きっぱなしだよ?いいの?


「どうしたんだよ、名前。赤也に何かされたのか?」
「ちょ、丸井先輩、それ人聞き悪いっスよ〜」
「切原君、今日私たちが出会った記念として特別にこの炭酸をあげよう。有り難く飲みたまえ。」


自転車のかごから炭酸の方だけ取り出し、切原君に渡した。え、くれるんスか?、と喜んでもらえたし、それならそれで満足。ブン太は怪訝そうに私を見ていた。ブン太は空気は読めないけど、色々鋭いからもしかしたら気付いたのかもしれない。


―――


2011.12.28


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