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ブン太は私とジャッカル君に凜子を連れて屋上へ行くように言った。言われた通りにジャッカル君は凜子に声を掛け、私は二人の後ろから黙ってついていった。気まずさ百パーセント。早くもめげそうになった。


「名前、」


凜子に呼ばれた気がした。俯かせた顔を上げると、そこには凜子の背中があって、やっぱり気のせいだった。


屋上には誰もいない。ブン太はいなくて、何処にいればいいのかもよく分からず、私は適当にドアの陰になっている壁際に腰を下ろした。凜子は私の前に立った。


「あたし、名前のこと信じたい。」


凜子の発言に視線を上げる。逆光で表情はよく見えない。


「だって名前がやったって証拠がない…。でも、言ってないって証拠もない…。」


頭ごなしに犯人は私だと決め付けていた凜子が、この数時間で考えを改めていた。そのきっかけがブン太だとは全く思わず、凜子の言葉に少し安心した。その時、屋上の金属製のドアが音を立てて開いた。ブン太が二人の女子を連れている。私たちは咄嗟に身を隠した。


「だから頼むって!誰が言ったか教えてくれよ〜」


顔の前で合掌するブン太。もしかしたらその女子二人は、今朝の奴らかもしれない。ブン太はこちらを向き、女子は背中を向けていたので私たちは陰から顔を出して様子を伺った。ブン太は何か交渉をしているようだ。


「だから〜、苗字さんが教えてくれたんだよっ!」


あいつら、ブン太のファンだ。中一の時の嫌がらせの主犯はあの二人だった。悔しくて、手に拳を作った。でも今その拳に手を重ねてくれる人はいない。


「俺、長年あいつと付き合ってきたけど、あいつ鈍臭いし情報もおせえからそんなビッグニュース知るはずねえって。」


一見悪口ともとれる発言に若干イラッときながら、我慢。ブン太はきっと私のために、あいつらから聞き出そうとしてるんだ。ブン太が私の悪口を言ったのに気をよくしたのか、女子はくねくねしている。うっざ。


「え〜、どうしよっか。」
「ブン太君になら言ってもいいかな。」


馬鹿な女。ブン太も絶対同じこと思ってる。あいつらブン太に気に入られたいだけだ。そして事の真相に私たちは耳を澄ませた。


「昨日たまたま中庭にいたら、苗字さんと野崎さんがその話してたから聞いちゃったの。」


え、それだけ?まさかの真相に私は驚く。凜子やジャッカル君も拍子抜けだ。でもブン太は、一瞬だけ険しい顔をした。あれ、怒ってる。


「写真貼ったのは、お前ら?」


普段のブン太からは似つかわしくない低い声に、女子は肩を揺らした。焦ってフォローを入れようとしたが、墓穴を掘ることになる。


「あ、それはっ、苗字さんに付き纏われてブン太君が迷惑がってると思って…」
「あれくらいしたら少しは大人しくなるかと思ったんだよ!ねっ!」


やっぱり馬鹿だ、こいつら。それ、自分がやりましたって言ってるようなもん。私は拳を握りしめて陰から出て行こうとした。その瞬間、ブン太の側にあったぼろい木机が横に吹っ飛んでいた。突然の音に女子はビクッと怯え、私たちも陰から飛び出た。ブン太が木机を蹴飛ばしたのだ。床に転がっている。


「…お前ら、覚悟できてんのか?」


先程より更に低い声。ブン太のただならぬ雰囲気に、女子は怯え切っていた。なんだか、良からぬ空気。私はブン太が何か仕出かす前に彼の前に立ちはだかった。女子は驚いて何やら言っていたけど、それどころじゃない。


「ブン太、落ち着いてよ!」
「これが落ち着いてられるか。こいつら何つったか聞いたか!?名前に付き纏われてるって。付き纏ってるのはこいつらだろい!」


おっしゃる通りですから落ち着いて!私はブン太の腕を引っ張って落ち着かせようとした。そこでやっとブン太も少し冷静になったのか、女子を睨み付けた。


「次また名前に何かにしてみろい。殺すぜ?」


ブン太にしては珍しいほど怒っている。私のために怒ってくれるブン太は、やはり幼なじみだった。


―――


gdgd…

2011.12.28


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