12


名前は強い。小学校の頃から、俺は馬鹿みたいに自分のことしか見えてなくて、多分名前は俺絡みのことで嫌がらせを受けていたんだと思う。でもあいつは一度だって弱音なんて吐かなかったし、俺の隣ではいつも笑ってた。嫌がらせを受けてたって構わずに、俺の隣にいてくれた。どんな時も名前だけは絶対俺の味方をしてくれると思ってた。


でもそれどころじゃねえ。名前が野崎とジャッカルのことをばらした?ありえねえだろぃ。そんなん、ジャッカルのファンがやったに決まってる。誰が言ったのか知らねえけど、野崎もなんで名前を疑うんだよ。疑うって言うよりも、名前だって決め付けてる。ふざけんな。それから必死になって野崎に取り合ってる宮本、本気でうぜえ。


「苗字さんが言い触らすはずないだろ!」


黙れ。なんで宮本が名前を庇うんだよ、引っ込んでろぃ。あいつに名前の何が分かんだよ。っつーか宮本は名前狙ってるってバレバレなんだよ。残念だったな!名前は俺のこと好きなんだぜ。お前なんて眼中にねえ。…とにかく、こういうのは男子が入り込むことじゃねえ。女子同士のいざこざに男が口出しすると、ろくなことになんねえんだ。それは中一の時、身を以って知った。名前への嫌がらせを知った俺は女子に文句を言おうとしたが、名前がそれを制した。ブン太が入ると余計ややこしくなっちゃうから黙って見守ってて、と。俺が幼なじみだからって嫌な思いをしたのに、名前は一人で戦おうとしたんだ。


だから今回も、俺は見守ってる。口出しちゃ駄目だ。野崎を逆なでするようなことは名前に良くない。本当は俺だって言ってやりたい。名前がそんなことするはずねえって。怒鳴り散らして、あの写真撮った最低な奴らを殴り飛ばしたい。でも俺がそんなことしたって、名前は喜ばない。だったら今俺が出来ることを。


「宮本。」
「なんだよ、丸井。お前まで苗字さん疑うのか!?」


その前に野崎の顔を見ろよ。不機嫌極まりねえ。ほんと、宮本は空気読めねえな。


「そんなん分かんねえだろぃ。」


俺の発言に一番驚いていたのは野崎だった。なんだよ、そのリアクション。俺だって馬鹿みたいに名前の味方をする訳じゃねえ。いや、内心信じ切ってるけど。でもそんなことは口にしない。俺は宮本みたいな馬鹿じゃねえ。


「名前が言い触らしてない、って証拠はねえんだし。」
「丸井!」
「うるせえよ、さっきから。」


俺は自分の席についたまま、興奮気味の宮本を下から睨み付けた。お前は名前のことに一々口出してくんな。


「ま、でも名前がやったって証拠もねえんだし、決め付けんのは良くねえんじゃね?」


すると野崎は、分かってるよ、と悲しげに呟いた。本当は名前のこと信じてやりたいんだな。俺たちの会話は終わった。野崎の横で宮本が悔しそうにしている。ざまあ。で、俺の横では仁王が楽しそうにニコニコ、いやニヤニヤしている。渦中の人間(野崎)だっているし、俺なんでこのクラスなんだ。I組の教室で名前はどうしてるだろう。向こうにはジャッカルだっているし。よし、昼休みになったら行こう。


名前のために出来ること。考えても思い浮かばない。だって俺は口出し出来ねえから。だったら、名前の隣にいてやりたい。名前の隣で、一緒に乗り越えてやりたい。それが俺の、幼なじみとして出来ることだと思うんだ。


―――


ブン太視点
宮本君が気に入らないみたいですよ、彼

2011.12.27


[ 12/33 ]

[] []