11


朝、ブン太の自転車の後ろに乗っていると、前から弾んだ声が飛んできた。


「今日朝練見に来いよ!」


今までも誘われることはあったが、告白後は初めてだった。嬉しい!こんなことなら、お弁当と一緒に何か差し入れ作ってあげれば良かった。


「行く!」


それがいけなかった。


ブン太の妙技に見とれて、ジャッカル君を見てニヤニヤして、そこまでは良かった。練習後、着替えると言って部室前でブン太と別れた。私は先に教室に行くと言って一人で教室に向かった。今日は何故か廊下が騒がしかった。廊下にある三年生用の掲示板に、人だかりが出来ている。何だろう、と私も少し背伸びをしてみると、前の方に凜子がいた。そして、掲示板には写真が貼ってある。それは凜子とジャッカル君だった。帰り道のようで手を繋いでいる。写真の横にはマジックペンで書かれた二人の相合い傘も。それは間違いなく、野崎凜子とジャッカル桑原と書かれている。何で…?


「あれ、本当だったんだ!野崎さんと桑原君が付き合ってるの!」
「ね!昨日苗字さんが教えてくれたの、本当だったんだね!」


人だかりから二人の女子の声がした。誰だ、と見回しても人が多過ぎて何処にいるのか分からない。その時だ。いつも以上に鋭い視線が突き刺さった。皆が私を見ていた。凜子も、私を見ていた。


「ち、違う!」


そう叫んだ時、二人の女子が人込みから抜け出して行った。それを追い掛けようとした時、腕を掴まれた。そして頬に強い衝撃。平手打ちか。冷静な頭で理解する。


「最ッ低!昨日の今日でよくそんなこと出来るね!?」


泣いていた。昨日笑って話してくれた凜子は、私の前で泣いていた。ざわつく野次馬に囲まれて、私たち二人は浮き彫りになったかのように静まり返っていた。私は小さく呟く。


「違うよ…、私が言うはずないじゃん…」
「あたしはあんたにしか言わなかった!」


凜子は私に背中を向けた。聞く耳も持ってくれない。私、何もしてないのに。信じてくれない。立ち尽くす私に、野次馬も背を向ける。ふと、背中に視線を感じ、勢いよく振り返ると、着替え終わったジャッカル君とブン太が、こっちを見ていた。彼らも背を向ける。瞬時にそう感じた私は、咄嗟に自分から彼らに背を向けた。


ブン太にまで信じてもらえなかったら、私どうすればいいんだろう。だから傷付く前に、私から背を向けたんだ。


―――


2011.12.27


[ 11/33 ]

[] []