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「そういえば、テニス部のレギュラーってモテるのに、彼女持ちって一人もいないよね。」


隣でお弁当をつついていたまりなは呟いた。ああ確かに、と鈴枝が頷く。凜子はと言うと、何食わぬ顔で箸を動かしていた。私も何も言わない。だって皆が彼女を作らない理由を知っているから。結構有名な話なんだけどな。


「もしかして、ソッチ系?」
「マジ?」


あらぬ方向へ進む会話に、私は思わず待ったをかけた。ファンの皆は知ってる話だし、言ってもいいよね。情報源のブン太だって得に口止めするようなことは言ってなかったし。


「一年の頃さ、幸村君の彼女が転校した話、知ってるよね?」
「ああ、うん。ファンクラブの先輩達に虐められてたんだよね?」
「そう。レギュラーはファンが多過ぎるが故に、学園生活を円滑にするために彼女は作らないって決めたんだって。だから、レギュラーが告白を断る時の台詞はいつも、『テニスに集中したいから』なんだって。」


そうだ。ブン太もいつもそう言って断ってた。仁王君への告白の現場に立ち会ってしまって生でその台詞を聞いたこともある。


「レギュラーも大変なんだね。」
「うん。だから、まあ、そういうことはあんまり…」
「了解了解!名前は丸井のことを悪く言われてご立腹だと。」
「ちがっ!そうじゃないよ。」
「照れるな照れるな。」


鈴枝とまりなはタッグを組んで冷やかしてくる。私的にはブン太のことは話に出してほしくない。楽しそうな二人を横目に、私は小さく溜め息をついた。そこで鋭い視線を感じる。反射的に見上げると、凜子がこちらを見ていた。柳生君のレーザービームの如く真っ直ぐに。


「…凜子?」


多分睨んでいる訳ではないと思う。じゃあ何だろう。私は食べ終わったお弁当の蓋を閉め、包みに戻した。そのタイミングを見計らったように凜子は鞄から財布を取り出していた。


「名前、飲み物買いに行くの付き合って?」


やっぱり強い眼光を感じる。何となく断れなくて、まだ食べ途中の鈴枝とまりなを残して二人で教室を出た。凜子は私の親友と呼べる友人。一番心を開ける女の子だ。なのに最近彼女から視線を感じる。少し不安になりながら、私たちは中庭に向かった。中庭の自販機は飲み物の種類が乏しく、人は全く来ないのだ。だから凜子が私に話があるのだとは分かったけど。


「名前さ、あたしに何か隠してるでしょ?」


ドキンと心臓が鳴る。凜子に隠してることなんて一つだ。ブン太のこと。この言い方はもうばれているってこと。やっぱり凜子には敵わない。


「…ごめん。」
「それは、認めるってこと?」


私は観念して小さく頷いた。どうしよう、あたしも丸井が好きなの、とか言われたら。


「名前、丸井のこと好き?」


もう一度小さく頷いた。すると凜子は一つ溜め息をついた。隠していたことも申し訳ないけど、何て言われるのか、やっぱり恐い。


「…あたしも、好き。」


何かが崩れていく。私は顔を俯かせた。ちゃんと最初から話していたら何か変わっていたのかな。凜子がブン太に惚れることもなかったのかな。そういえば凜子とブン太、同じクラスだ…。もやもやする。


「ふ、あははっ!」


笑い声に顔を上げた。凜子が笑っていた。なんで?今一応三角関係発覚したところなんだけど?私は顔をしかめた。


「ごめんごめん。嘘だよ。」
「え!?」
「だって名前自分から言ってくれないから。つい意地悪しちゃった。」


やべ、泣きそ。嘘か。良かった。べし、と凜子の腕をはたいた。


「気付いてたんだ。」
「うん、分かりやすいし。ジャッカルも言ってたし。」


何故ここにジャッカル君が出てくるんだ。凜子とジャッカル君が話してるとこ、見たことない。その旨を伝えると、凜子はまた声を上げて笑った。


「名前も認めてくれたことだし、あたしも秘密話すね。ジャッカル、あたしの彼氏。」


目が飛び出るとはまさにこのこと。だってさっきレギュラーが彼女作らない話をしたばかりで。そういえば凜子はあの時何も言わなかった。黙って聞いていた。そっか。じゃあ本当なんだ。


「絶対言わないでよ。」
「あ、当たり前!信じてよ!」


こう見えて、口は堅い方。それに凜子の秘密なら、尚更守るよ。目の前で照れたように笑う彼女は、凄く可愛かった。


―――


まさかのカップルw

2011.12.27


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