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化学の実験の班がジャッカル君と同じだった。机の真ん中で揺れるガスバーナーの青い炎を見つめ、溜め息をついた。
「おい苗字、それ病んでるみたいだからやめろ。」
「色々考えてたの。この塩酸をジャッカル君にかけたら、もしかしたら何かの化学反応起こしてそのハゲ山から髪の毛が生えてくるんじゃないかって。」
もちろんそんなことは全く考えていない。ブン太のことで頭がいっぱいだった。
「おまっ、ハゲ言うな!これはスキンヘッドだ!」
ジャッカル君面白いな。からかい甲斐がある。すると、丸井といると思考回路まで似るのか、とぼやいていた。それは聞き捨てならない。まるで私がブン太に似たみたいな言い方。でもそれは違う。
「ブン太が私に似たんだよ。」
「え?そうなのか?」
「うん。だってあのガムだって、“天才的”って口癖だって、私の影響だもん。」
ジャッカル君は興味を示したのか、詳しく聞いてきた。
ガムの話は至って単純。小三の頃、私が道で10円拾って駄菓子屋でガムを買ってあげたら、思いの外美味しかったらしく、あれからずっと買い続けている。
口癖の話は、小五の頃、近所の公園でテニスをしていたんだ。そもそも私たちが出会ったのはその公園。特に遊び道具はないし、鉄棒が端っこにあるくらいの公園。幼稚園の頃、ブン太は家にあったテニスラケットを持ち出して、ぽんぽんとボールを上に弾ませていただけだった。私たちは当時、テニスも知らなくて。小学校に入ってからブン太はテニスを始め、仲良くなった私がラリーの相手をしてあげたりした。でも私はテニスに本気じゃなくて、ブン太と私のスキルの差は次第に離れて行った。そして小五の頃、その公園で壁打ちをしていたブン太に思わず声をかけた。だってこの公園、フェンスに囲まれて鉄棒しかない。その鉄棒に壁打ち。数センチの鉄棒や柱にボールを当てて跳ね返ったボールをまた打つ。私が相手をしてあげられない時は、いつもそうだったらしい。そしてその光景を見た私が、
「すごい!すごいよ、ブン太っ!天才的!」
褒められたブン太は素直に喜んでいた。それからだ、ブン太が自分を天才的だと言うようになったのは。
ちなみに彼の得意技である妙技・綱渡りが完成したのは小六。これもまた、その公園で。ブン太の打ったボールが鉄棒に当たり、そのまま鉄棒を渡って行ったのだ。そこでも私は“天才的”を連呼していた。そしてその時見せたブン太の笑顔に、好きなのだと気付かされた訳だ。
妙技の話以外をジャッカル君にすると、へえ、と何か納得したような表情を見せた。
「だからあいつ、あんなにお前のこと頼ってんのか。」
「頼られた覚えないよ。」
「まあ、でもよ、これからも丸井のこと頼むわ。」
真っ直ぐ私を見ながら言うジャッカル君に、照れながらも、当たり前でしょ、と返した。
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二人の出会いの話
2011.12.26
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