食事の後、授業の準備をしてから、ラミは談話室でジョージを待った。暖炉の前のソファーに座って、ひたすら自分に言い聞かせていた。
教科書を返すだけ
教科書を返すだけ
昨日図書館に置きっぱなしにしたジョージの教科書やら羽ペンやらは、まだラミの元にあった。隣に置いた教科書を見つめ、覚悟を決めるようにゴクリと唾を飲み込んだ。
大丈夫。教科書を返すだけだから。
そう思い込ませようとした。必死に、自分の気持ちをごまかした。
ジョージが、しっかり私の目を見てくれますように。願わくば、ジョージが教室まで一緒に行ってくれますように。
「ジョージ、早く元気になれよ!」
その時、談話室の入口から声がした。フレッドだ。ジョージの名前を呼んでいる。ラミの心臓が強く脈打った。
「ジョージ!」
ラミは腹をくくり、立ち上がって名前を呼んだ。ジョージは一度ちらりとこちらを向くと、気まずそうに目を反らした。
「先行ってるぞ。」
フレッドとリーは自室に戻るために階段を昇った。
ジョージは友達と別れ、ラミの所まで来た。昨晩から話してないだけ。そんな短い時間だけでも、ジョージが怒っていると考えると、気が気じゃなかった。
「教科書を返そうと思って。」
「ああ」
納得したように呟くと、ジョージは教科書をソファーから取ると、ラミに向き直った。
「昨日のこと、謝ろうと思って。」
その言葉に、ラミは心に突っ掛かっていたものが流された気がした。
「本当、ごめん。」
教科書を抱え込みながら、ラミにジョージは頭を下げた。
こうやって謝られることも、いつぶりなんだろう。
なんて考えていると、ジョージは頭を上げてちらりとラミを盗み見た。そうやって真面目な振りして真面目じゃないところも、ラミの胸をくすぐった。
「どうしたら許してくれるかい?」
ジョージの言葉にはっとする。別に怒ってはいなかったから。ただ、悲しかっただけだから。それをそのまま口にすると、ジョージは照れ臭そうにしながらも、ラミに向き直った。
「もう悲しませないようにするさ。」
ジョージはラミの頭にそっと手をのせ、軽く微笑んだ。
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