聞こえなかったのかしら?


少し寂しかったが、また視線をジョージに戻した。顔だけだと区別がつかない二人だが、箒に跨がって飛ぶ姿には少しだけ違いがあった。


ジョージから目を離さないで姿を追い掛けていると、隣から話し掛けられた。リー・ジョーダンとは逆の方向。


「あなた、ジョージのガールフレンドなのよね?」


隣を見ると、先に練習を終えたチェイサーのアンジェリーナ・ジョンソンがいた。


「え?」


呆気にとられたラミを見て、リーは反対側から笑った。それを一睨みすると、リーは震え上がった。


「ち、違うわ!」
「顔が赤いのは気のせい?」
「え、ええ、気のせいでしょうね。」


何度も吃るラミに、リーは再び笑った。そしてもう一度ラミは冷たい視線を向ける。


「違うの?さっきウッドが言ってたのを聞いたの。」


そう言えば、さっきジョージをオリバー・ウッドから庇ってあげた時、重要な事を訂正していなかったことを思い出した。


それを今になって弁解したが、彼女はあまりちゃんと聞いてくれなかった。


「ラミ!」


その時、アンジェリーナの先の上空から猛スピードでこちらに向かってくる黒いブラッジャーが視界の隅に映った。


「危ない!」


ラミは咄嗟にアンジェリーナをその場に押し倒した。短い悲鳴と共に、二人の体は床にたたき付けられた。大きな音とともに、床の破片がパラパラと散った。


「大丈夫か!ラミ!」


箒に跨がったままジョージとフレッドがやって来て、観客席に飛び降りた。フレッドはラミとリーの間で床にはいつくばるブラッジャーを上から押さえ込んでいた。そしてジョージは床に倒れ込んだラミとアンジェリーナに駆け寄った。


「大丈夫かい?」


ジョージはゆっくり体を支えながらラミを起こした。床にうずくまったアンジェリーナは自力で体を起こす。そして冷たい視線をジョージに向けた。


「そのあからさまな態度の違い、やめてよ。」
「何を言ってるんだい、アンジェリーナ。俺はいつでも君を心配しているよ。」
「どの口が言うのよ。」
「この口さ。」


ジョージとアンジェリーナが目の前で繰り広げる愛の劇場に、ラミは立ち上がった。


も、もしかして…


「ご、ごめんなさい!」


ラミはいてもたってもいられなくなり、その場から走り去った。

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