俯きかけると、視界に火花が散った。突然大きな爆発音のようなものも、耳を襲う。心底驚いた。だって、あんなに酷いことを言ったのに。
「やあ、ラミ!調子はどうだい?」
赤毛の男は、手に持った花火を地面に向かってうった。
「ゾンコの長々花火だ。知ってる?」
それは今日の昼休みに、廊下で打ち上げていたものだった。火花を散らしながら、それは地面で踊り回っている。
「夕食は食べたかい?」
こうやって何も考えずに中庭に踏み込んで来る人はいなかった。こうやって何も考えずに私に話し掛けてくれる人もいなかった。
ラミは弱々しく首を横に振った。
「なんと!今日は凄く美味かったのに、もったいない。」
笑いながら彼は隣に腰掛けた。
「食べるかい?」
ポケットから出したのは、黒胡椒キャンディだった。こんなんじゃ腹いっぱいにはならないけど、と付け足して頭を掻く。そんな姿に胸がくすぐられた。
「ジョージ…、ありがとう。」
そのキャンディを受け取ると、ジョージは大袈裟に驚いた表情を見せた。
「どうしたんだい?君、本当にラミかい?」
失礼な人ね、と思いながらラミは横目で彼を見た。そういえばいつだって彼は、ジョージは私のことをラミと呼んでいた。馴れ馴れしいはずのその行為が、当たり前だと思っていた。でも違った。初対面の人をファーストネームで呼ぶなんて普通じゃなかった。
でも本当はそれが、とても嬉しかったのね。
「ジョージ、本当にありがとう。」
「フレッドかい?ポリジュース薬でラミに変身するなんて悪趣味だぞ。」
「失礼ね。本物のラミよ。ラミ・ヘンリー。」
「ほう、君はかの有名なヘンリー家のお嬢なのだね?初めて知ったよ。」
ジョージの発言にラミはくすりと笑った。彼はやはり切り返しがうまい。
「ふふ、嘘つきなのね。」
「君の笑顔を見るのは、本当に初めてさ。」
自分でも驚くほど心が穏やかだった。周りを敵対視し過ぎていたのかしら?素直になれば、こんなに楽なのね。
「これ、」
ジョージはローブのポケットから何かを取り出してラミに差し出した。袋に何か入っているようだった。
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