ジョージの表情は明らかに、信じられない、と言っている。咄嗟に、この間の談話室でのマリスを庇う発言を思い出した。あ、信じてもらえない、と思った。一瞬で後悔が襲う。ラミは目を伏せた。


「……そう、だったのか。」


反射的に顔を上げた。するとジョージは寂しそうに笑っていた。信じてもらえたのだろうか。ラミは不安げに顔をしかめた。


「スリザリンにも、良い奴がいるんだと思ったのにな。」


胸が苦しくなった。言わなければよかった。そしたらジョージは何も気付くことなく、傷付かなかった。


「…ごめんなさい。」
「どうしてラミが謝るのさ。謝るのは俺だろ。」
「だって…、告げ口みたい…」


ジョージはラミの頭に手を載せ、優しく微笑んだ。その笑顔も、ジョージの温もりも久しぶりで、いとも容易くラミの涙腺を緩めた。しかしそれを出すことはなく、ジョージを見つめた。


「いいよ、告げ口。俺のことも頼って。」
「私よりマリスを優先したくせに。」
「違うって!俺が優先したのはマリスじゃなくて悪戯の方。他の女なんてどうでもいいよ。」


ああ、ジョージらしい、とラミは笑った。ここ数日の空白を埋めるかのように、ジョージはラミを抱きしめた。しかし二人が立つのは階段の踊り場。誰もの視線が集中した。


「ちょ、ここ階段!」
「別にいいだろ、何処だって変わらないさ。」


身体中を覆うジョージの温もりに、ラミはもう言い返す気力も無くした。まあいいか、と彼女も怖ず怖ずとジョージの背中に手を廻す。


「ひゅ〜」


何処からか、冷やかしの声がする。リーだ。


「階段でいちゃつくな〜」


フレッドの声もした。ジョージの腕の中からは外が見えない。声だけで皆がいることが分かる。恥ずかしくなり、ゆっくり離れた。そして周りを見渡すと、リーやフレッドだけでなく、アンジェリーナやアリシア達もいた。皆揃いも揃って、階段の手摺りから身を乗り出す勢いでこちらを見ている。他にもジョージとラミの不仲を知っていたグリフィンドールの仲間達や、通りすがりの生徒達も何事かとこちらを見ていた。しかし誰もの顔には笑みが在った。何だか祝福してくれているような気がして、ラミははにかんだ。そこでやじ馬の中で、嬉しそうに顔を緩ましたエレミーの姿を見付けた。


「エレミー!」


思わず名前を呼ぶと、笑顔で手を振ってくれた。


「よかったね!」


あの時エレミーがいなかったら、こんな未来はなかった。ラミは涙を堪えながら、ありがとうありがとうと何度も呟いた。それに気付いたジョージは再びラミの頭に手を載せて微笑んだ。そして彼女の肩を抱き、皆の方にピースを向けた。オオーという大歓声の中、ラミの涙はようやく流れ落ちた。


あの頃、想像もしなかった未来が今ここにあった。

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