心の葛藤はまだあった。あんなに酷い裏切り方をしといて今更何よ、という気持ちが全くないとは言い切れない。しかし、ジョージがいない今、アンジェリーナ達だけが頼りであるのに、その彼女達もいない。そんな中でエレミーの助けは大きな支えとなった。感謝せずにはいられない。


「ありがとうね、エレミー。」


寮までの薄暗い廊下。半歩先を歩く彼女を斜め後ろから見つめ、ようやく出た言葉だった。するとエレミーは昔と変わらない笑顔を見せた。


「あたしだって昔たくさん助けてもらったもん。」


お互いまだ気まずい空気を保ちながら、大理石の階段へと差し掛かった。その時だ。ジョージとマリスが二人で階段を下りて来るのが見えた。このままだと踊り場で遭遇してしまう。自然とラミの足はスピードを緩めた。しかし、


「あたしが出来るのはこれくらいだよ。」


エレミーは笑顔でラミの腕を引っ張った。あなたは悪くない、堂々として、と彼女の目が訴えていた。そして手を引いたままエレミーはマリスの前へと立ち塞がった。


「あれ、お前…」


やはりグリフィンドール同士、ジョージはエレミーの顔に見覚えがあった。それは二年ほど前までは常にラミの隣にあった顔。ジョージは素直に驚いていた。しかしそんな彼をよそに、エレミーは先程同様、相手に食ってかかっていた。


「あらマリス、あんたまだこんなとこにいたの?スリザリンの奴ら、さっき作戦会議開いてたよ。」


再び鎌をかけているようだ。しかし先程のようにうまくはいかず、マリスは黙っていた。その隣でジョージは何言ってんだこいつ、とでも言うようにエレミーを見ている。そしてラミは背後で不安げにその場面を見ていた。何も言い出さないマリスに痺れを切らしたジョージは彼女を庇うように口を出した。


「何なんだよ、お前。」
「ジョージは何も分かってない。あんたがマリスといちゃいちゃしてる間に、ラミはまたスリザリンの女にちょっかい出された。なんて言われたか見当もつかないでしょう。」


エレミーの怒りの矛先はジョージに替わり、ラミは慌てて引き止めた。そんなことを彼の前で言ってほしくはない。するとジョージは不審に思ったのか、ラミに向き直った。


「何?なんて言われたの?」


ラミは口を噤み、顔を俯かせた。

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