「…そうね。」


切り捨てるような返答に、ラミの胸は痛んだ。だが仕方ないのだ。憧れ、と言ってもやはりそれは昔のことで。時間が流れれば抱く感情は変わるし、関係も変わる。


「今は羨ましい、なんて全然思わない。だから、」


エレミーの強い眼光は、ラミに向かっていた。それに受けて立つように、ラミも彼女を見つめた。


「だから、ごめんなさい!」


彼女は素直に、全身でその謝罪の意を示すように頭を下げた。ラミはぼんやりとエレミーの頭のてっぺんを見つめていた。走馬灯のように、彼女と過ごした映像が脳裏に浮かんでは消える。こんなことになるなんて、あの頃は全く想像もしてなかった。


「エレミー…」


なんて身勝手なんだろう、という感情と、素直に謝られて嬉しいという気持ちが入り交じる。どちらが優勢だったのか、と言うと答えはすぐに出た。


「私、そんな簡単に許せないよ。」


エレミーは頭を下げたまま黙って聞いていた。ラミの手には自然と力が篭められる。泣きそうになる思いを必死に押し込めた。


「でも…、でも駄目ね。エレミーのこと、嫌いになんてなれない。」


しかし押し込めきれなかったらしい。大粒の涙が頬を伝った。そしてお手洗いの冷え切った床を濡らしていく。それに気付きエレミーは顔を上げた。


「昔のようにはもう戻れないけど…それでも、私はやっぱり、エレミーが好きよ。」


エレミーはラミに近付き、ローブの裾で彼女の涙を拭いた。


「だって、初めての友達だもの…。」


ラミは笑った。頬を濡らしながら、それでも笑った。そんな彼女の笑顔を、何よりも美しいとエレミーは思った。


「……寮に戻ろう、一緒に。」


彼女の言葉に、ラミは大きく頷いた。

[ 144/148 ]

[] []