ラミは何となく、エレミーと目を合わせられなくなって顔を俯かせた。と、同時に唇を噛み締める。脳裏にあの言葉が蘇る。


『ラミの引立て役にはなりたくない。』


初めて自分をヘンリーの娘としてではなく、一人の人間として対等に接してくれた彼女だった。だからこそ、その言葉は胸に突き刺さった。結局エレミーも、ヘンリーとしてしか見てくれなかったのだ。羨ましかった、という言葉が何よりも証拠になるとラミは思った。しかし、エレミーは彼女の気持ちを汲み取るように、寂しそうに笑った。


「違うよ。」


何が違うと言うのか。ラミは俯かせた顔を上げ、視線をエレミーに向けた。すると彼女はもう一度、違うよ、と言った。


「あたし、今も昔も、ラミはラミだと思ってるよ。」


その言葉には聞き覚えがありすぎた。何よりもラミが望む言葉。彼女の存在価値を認める言葉なのだ。


「羨ましいのは、外見なんかじゃない。ラミのその強さだよ。家系のことを言われた時も、あたしが『穢れた血』って罵られた時も、いつも真っ直ぐに立ち向かって、いつも気高く気品に溢れて。いつだってあたしの憧れだった。」


エレミーは昔のように弱くはなかった。ラミに護られていた彼女はもういない。エレミーの言葉を嬉しくも感じた。しかし、だからこそラミはエレミーの言葉を遮った。


「でも…今はもう違うわ。」
「え、」
「だってエレミー、私のために言い返してくれたわ。私は何も言い返せなかったのに。もうあなたの憧れなんかじゃない。」


エレミーは驚いたように少し口を開いたが、何も出てこなかった。淋しげに眉をひそめたが、すぐに何かを決意したような力強い視線をラミに向けた。

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