最近はずっとジョージは休み時間、マリスと一緒にいたからラミはなかなか話し掛けることが出来なかった。だから昼前の休み時間、廊下のベンチに一人で座っているジョージを見付けた時はチャンスだと思った。


「ジョージ!」


ジョージは羊皮紙を覗き込んでいた。そこにラミが現れると、彼は慌ててその羊皮紙をローブのポケットに押し込んだ。


「ラミか。何?何か用?」


あれ、と率直に思った。今まではそんなこと言われなかった。ジョージにしては冷たい発言だった。そこで昔彼が言った言葉を思い出した。


「え…と、用がなきゃ、話し掛けちゃいけないかしら?」


昔を思い出した。まだジョージが欝陶しくて仕方なかった頃のことを。今では立場が逆転していた。こんなに辛い言葉だったのか、と妙に納得できる。ラミの表情がその物寂しさを語っていた。


「そうじゃないけど…」


無意識なのか、ジョージは顔を曇らせた。そんな彼に再び胸が裂ける。そして最後のトドメとでも言うように、聞きたくない名前が彼の口から飛び出る。


「マリス!」


ラミ越しにその名を呼び、ジョージは駆け寄った。もしかしてここにいたのも、彼女と待ち合わせだったのかもしれない。背後から微かに話し声がし、すぐに遠退いていった。雑踏の中、ラミの存在だけが浮き彫りになる。


ラミの目には、誰もいないベンチだけが写っていた。

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