セドリックと別れて、そろそろ寮に戻ろうかと薄暗い廊下を歩いていた。角を曲がった瞬間、驚くほど偶然に目の前にジョージがいた。走ってきたのか、少し息が切れている。彼の方もまさかラミがいるとは思わず、動揺を見せていた。


「ジョージ?どうしたの?」
「ラミ!一緒に逃げて!」


ジョージは有無を言わさずラミの手をとって走り出した。訳も分からず廊下を疾走する二人。


「ジョージ!待て〜!」


後ろから声がして、ラミは走りながら振り向いた。すると物凄い形相のパーシーが追って来ていた。ラミは慌てて前を向き、動かす足を更に速めた。


「ちょ、ジョージ!パーシーに何したの?」
「コレをちょっくら借りただけさ。」


そう言って見せてきたのは監督生のバッジだった。Pと書かれたそれは、パーシーが物凄く大事にしている物だった。


「今すぐ返しなさいよ!私を巻き込まないで!」
「じゃあ隠れるか。」


答えになっていない答えを返し、ジョージは玄関ホール近くの物置にラミを押し込み、自分も入ってから扉を閉めた。もともと人が入る場所ではないため、二人は身体をぴったりとくっつけていた。そこは所謂、薄暗い密室だった。


走ってきたため二人は息が切れていた。物置の外ではパーシーが狂ったようにジョージの名を叫びながら走り回っている。ジョージは息を整え、ラミを後ろから抱きしめた。


「ちょ!」
「狭いからしょうがない。」


そう言ってしまえばそうなのだが。ジョージは左手を腹部に廻し、右手でラミの口を覆った。そして自分の方に押し付けるように引き寄せ、それから顔を彼女の首筋に埋めた。ラミの頭に昨晩のアンジェリーナの話が蘇った。


「っ!」
「黙ってて。」


ジョージの唇が微かに耳に当たった。彼の声がダイレクトに伝わる。ラミは身体の芯から熱を篭らせていた。緊張と微かな興奮が入り交じり、口元のジョージの手に意識を持って行かれる。


「……」
「ラミ…」


耳に吐息混じりの声が響いた。一瞬身体を震わせ、ラミは目をぎゅっと閉じた。心臓の高鳴りは尋常ではない。ラミは昨晩の話からジョージを意識していたのだ。未知の体験をもしかしたらいつかはするのかもしれない、その相手はジョージかもしれない、と年相応な少女の考えが頭を支配していた。それが昨日の今日でジョージと密室に二人きりでこんなに密着しているともなると、居ても立ってもいられないのだ。


「…ラミ、クリスマス一緒にいれるな…。」


うわごとのようにジョージは言う。しかしラミは彼の大きな手に口を塞がれているため、小さく頷くことしか出来なかった。

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