日常が戻って来た。部屋も四人部屋に戻し、ほとんどの時間をジョージや友人達と共に過ごす。そんな毎日にこれほどまでにないほど、感謝していた。


朝、ラミは談話室でジョージを待っていた。何となく、前とは違う雰囲気のジョージ。ラミは会う度に心臓の鼓動を高鳴らせていた。待ち合わせの時も、そわそわしている彼女に、周りはほほえましく感じている。


「やあラミおはよう!」


寮の階段を駆け降りて来たリーは早口で言い、ラミに駆け寄った。返事をする前にリーは軽くラミの制服のネクタイを引っ張った。


「いたっ!な、何?」


にひひ、と怪しい笑みを見せて談話室から出て行った。何がしたかったのかよく分からず、ラミは崩れたネクタイを結び直そうと、ネクタイに手をかけた。その時、再び寮の階段をドタドタと駆け降りる音がして、顔を上げた。


「ジョージ!」
「ああ、ラミ、おはよう。リー見なかった?」
「もう出て行ったわよ?」


談話室の扉を指差して言う。するとジョージは深い溜め息をつき、視線をラミに向けた。


「ネクタイ、崩れてるよ?」


ジョージはそう言ってラミの首元に手を延ばした。彼女は反射的に身を引く。


「じ、自分で出来るわよっ」
「いいからいいから。」


今度はその手を払えなくて、ラミは顔を真っ赤にさせて俯いた。ジョージはするりとネクタイを取った。何とも言えない羞恥が彼女を襲う。


「ラミ、顔上げて。結べない。」


かあっ、と効果音が付きそうなくらい真っ赤なラミにジョージは笑った。近距離でジョージの笑顔に視線を奪われる。自分の首元でジョージの指が動いてると考えると、いてもたってもいられなくなる。


「ラミ、ネクタイ結ぶだけだから。」
「わ、分かってる…」


ラミは羞恥に耐えられなくなり、思わず強く目をつぶった。間近にジョージの吐息を感じて、早く終われと念じた。叶ったのか、首からジョージの指が離れた気がした。肩の力が抜け、目を開けようとした瞬間だ。


「っ!?」


一瞬だけ、唇に感触を感じた。ラミは咄嗟に目を開けた。キスだ。キスをした。誰と?ジョージと?目の前には、うっすら赤みを帯びたジョージ。気まずそうに頭を掻きながら視線をそらしていた。


「ラミが目の前で目つぶったりするから!」
「わっ私のせい!?」
「当たり前だっ!」
「ネクタイ結ぶだけって言ったわ!」
「最初はそのつもりだったよ!」
「だ、だいたいネクタイ、自分で結べるって言ったわ!」
「知るかーっ!」


二人揃って真っ赤になりながら言い合う姿に、階段上にいたアンジェリーナとアリシアとフレッドは呆れ返っていた。

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