魔法は禁止、休み時間は全部階段拭きに費やされる。夕食後も続く罰則に、三日たっても終わらない、とジョージは雑巾を片手に嘆いていた。そんな時、今さっき自分が拭いた所を女の子が通ろうとしていた。


「待った!こっち!こっち通って!」


俯かせた顔を上げ、女の子の蒼い瞳と目が合った。その瞬間ジョージは唾を飲み込んだ。やっぱり綺麗だと思う。


「そっち今拭いたばっかりなんだ。こっちまだ拭いてないから、良かったらこっち通って!」


指を差しながら一生懸命に説明すると、ラミは薄い笑みを見せた。ジョージは視線をそらし、床を拭くために体を屈めた。


「まだ終わらないの?」


まさか話し掛けられるとは思わず、屈めた体を硬直させた。上から覗き込むように、心配そうにしていた。ジョージは慌てて立ち上がる。


「ああ。階段何段あると思う?数えようと思ったけど、断念したよ。」


するとラミは再び薄い笑みを浮かべる。しかしジョージは、組分け帽子に寮を決められたあの日のような輝いた笑顔を、しばらく見ていないことに気付いた。彼女の顔からはどんどん笑顔が消えていっている。そんなことを考えていると、ラミはローブのポケットから取り出したハンカチをジョージに渡した。


「何これ?」
「今日の夕食に出たハッカアメ。頑張って?」


そのままラミは階段を上りはじめた。ジョージは止まった思考回路を再び動かし、呼び止めた。


「あのさっ!」
「何?」


冷たい視線だった。やはりラミの心はもう凍り付いていた。それでもジョージは笑顔を見せた。


「ありがとう!」

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