ユウジと髪の毛


見慣れない姿で登場して、目に刺さるくらいの近さでVサインをかますこの女。一応カノジョ。教室で小春といちゃついとると邪魔してきよったから、少しむかつく。


「髪、切った!ついでにパーマもかけ直してきた!どう?」
「…別に。」
「あっ、ひどい!」


ぷうっと頬を膨らませて不服を訴える俺の…カノジョ。昨日より断然短くなった髪の毛先を指でいじりながら、顔を曇らせよった。目つぶししそうやったVサインは片手でパシッと払った。「やっぱりその場のテンションでショートにしたのは間違ったかな〜?」と、悔やんどる。悔やむ必要はないと思うけど。俺のひいき目無しに、めっちゃ似合っとる。っちゅーか…か、可愛い。けどまぁ俺は口ベタやし(桃城とマムシに言わせれば「不器用っスから!」)、うまいことは言えん。


「ショート、珍しいな。」
「うん!ユウジは短いの、苦手?」


ちょっと前までの俺は女の髪型とか興味あらへんかったし、頭ん中小春でいっぱいやったから正直どっちでもええ。けど名前のことになると話は別や。長いときは長いで綺麗やったし、短いときは短いで、その…可愛い。どっちでもええよ!良い意味でな!


「…や、別に。どっちでもええわ。」
「も〜、ユウジってばそればっかり!あ、白石!」


またもや頬を膨らましたから指でつっつこうとしたら、近くの席でケンヤと喋っとった白石を見付けて俺から離れて行きよった。今、俺と話してたやろ!なんで勝手に…


「お!髪切ったんかぁ!似合てるで」
「ホンマや!くるくるやな!」


白石の甘い言葉+ケンヤのボディ(ヘアー?)タッチ。ふ、ざけんなァ!で名前はなにちょっと頬赤くしとんねん!死なすど!わなわなと握ったこぶしが震えとると、俺の肩に腕がまわった。愛しき小春や。


「名前ちゃん、とられてまうんやないの〜?」


至極楽しげにニコニコしとる。く、悔しい。俺かて「似合っとる」とか「可愛いで」とか言ったりたいけど…不器用っスから!


「名前ちゃん、ショートも可愛いなぁ!」


ケンヤ…死なす。確実に死なす。なに無断で俺の名前の髪触っとんねん。「くるくるや〜」って、おまえの脳みそがくるくるや!昇天しろや!


「名前!」
「ん?なに、ユウジ。」


な、なにって…なんで彼氏おる前で素直に髪触らせとんねん!俺が触ろうとしたら恥ずかしい言うて逃げるくせに!むかつくむかつく!咄嗟に細っこい手首を掴んで引っ張った。ニヤッと整った唇をひん曲げる白石と、きょとんとしとるケンヤを横目に、俺は名前を教室から連れ出した。やってむかつくんやもん。小春の最後に残した「楽しんどいで〜!」っちゅーセリフに突っ込もうとしたけど、うまい切り返しが思い浮かばんかった。


「ちょっと!なによユウジ。」


人のおらん非常階段の踊り場まで引っ張ってきた。声を荒げる名前を無視して、肩にも掛からないほど短い髪の中に顔を埋める。


「ちょ、え、待っ、ユウジ!」


俺の頭を押し返そうと手に力を入れとるみたいやけど、現役テニス部レギュラーはそない弱っちー力には負けん。構わず肩を掴む手に力を入れ、首筋をちょろっと舐める。学校でこないなことするんは初めてや。めっちゃ緊張する。


「っ、ユウジ…!」


びく、と小さく身体を跳ね上げ、ひたすら抵抗する名前。あー顔が見たい。今絶対顔真っ赤なんやろなぁ。ちょっと涙目で、俺が「嫌なん?」って言ってじっと見つめれば、名前は目を泳がせながら「嫌じゃ…ないよ」って言うはず。けど今は目的果たすまで顔を上げるつもりはない。眼前に見える名前の首筋に唇を付け、強く吸う。俺の頭の上からは小さく嬌声を上げとる。やばいやばい。


「も、やめてよ…」


朱く鬱血したそこをしっかりと確認した後、俺は顔を上げて名前と目を合わせた。そんで短くなった髪に手を添える。


「髪、めっちゃ似合うとるで。可愛い。」
「えっ…ユウジ?」
「せやから、白石の言葉に照れたりケンヤに髪触らしたりすんの、やめや。」


い、言うたで、俺!達成感ハンパないんやけど。人間切羽詰まると何でもできんねんなぁ。


「あ、ありがとう…」


名前が照れとる。うっわ、ほんまに可愛い。やばいでコレ。絶対言わんけど。


「…って甘くしめようとしないでよね!何どさくさに紛れて痕つけてんのっ!」


名前は顔真っ赤にさせながら首筋を擦った。ポケットから鏡を取り出して、一生懸命消そうとしとる。へっ、ざまあ見ろ。ケンヤに髪触らすからや。と考えとると頭はたかれた。


「な、何すんねん!」
「今絶対ざまあ見ろとか考えてでしょ!」


もう!と悪態をつきながらも、首筋ごしごし。俺はそれ見ながら優越感を抱く。


「あ、やっぱり短い方がええかも。」
「ほんとっ?」


瞳をキラキラさせる名前には悪いけど。俺は自分の首筋を指でぽんぽんと差し、華麗なるドヤ顔を作った。


「やって短い方が、痕隠せんやろ?」


それが原因で丸一日口きいてもらえんかったんは、言うまでもないことやけど。


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と、言うわけでバッサリ髪切りました
人生初のパーマもかけてきました
鏡見ても自分が自分じゃない…!
んでもって、ヒロインサイドで書けばよかった(´・ω・`)

2012.03.23


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