ブン太と受験


太陽が西に堕ちる午後四時半。日暮れがこんなに早いのは何故か、って。冬だから。そして教室。寒い。一応暖房は入っているのか、天井に取り付けられたそれからはゴーゴーと唸るような音が発せられる。あたしは窓際のブン太の席で机にべったりと頬を付け、真冬の寒さの中部活動に励む年下の姿を視界に入れていた。いや、それにしても寒い。


「おい。」


呼ばれても起き上がれる体力が残っていない。あたしが延ばした手を、向かいに座るブン太はぺしぺしとシャープペンで叩いた。痛い。


「なーにサボってんだよ。勉強しろぃ。」
「…うるさーい」
「勉強しろぃ。」
「ちょ、マジうるさい。黙って。」
「勉強、しろぃ!」
「うるさいな!」


身体を起こしてから後悔。ブン太はニヤリと口端を上げていた。くそー、騙された。いや、別に何も騙されてはないけど。悔しくなって今だに手を叩いてくるシャープペンを奪った。って言うかもともとあたしの。部活を引退してから、ブン太はあたしの受験勉強を見てくれるようになった。と、言ってもブン太は理数系が苦手だし、文系科目は教えてもらうことがないから、実質こうやってあたしが勉強するのを見張るだけ。それでも、もうすぐ高校が別々になる彼氏がそばにいてくれるのはすごく嬉しい。


「…はぁ」
「ため息つきたいの、こっちだぜ。」
「なんでよー。別にブン太はこんな受験勉強しなくていいじゃん。」
「はぁ?おま、あれだぞ…、おまえなぁ」
「ブン太しどろもどろで全然分からないよ。」


意味が分からない。ブン太は机挟んで向かいという結構な至近距離で気まずそうに目をそらした。なんだなんだ。あたしは持っていたシャープペンでペン回しをした。うん、我ながら天才的。


「……応援、」
「ん?」
「応援してやってるだけ、いいだろぃ。」
「え?もしかして、あたしが落ちればいいって思ってるの?」
「そうは言ってねぇよバカ。だから〜…」


ブン太は目の前で自分の赤い髪をくしゃりと握り、顔を俯かせた。なになに。なんなのさ。


「おまえなぁ、カノジョが別の高校受けるっつって、なんで心から応援できんだよ。毎日会えねぇんだぜ?他の男だっているだろうし。でも、おまえが決めたことなんだし、俺も口出しはしないつもり。今まで黙って隣にいただろぃ?頑張ってるおまえ見て、やっぱり応援してやろうって思ったんだよ。目の前で俺から離れてく準備してるカノジョの背中を押してやるカレシ。うわ、俺、超健気。」


回していたペンがカタンと音を立てて机に転がった。だって。え。なに。ブン太、そういうふうに思ってたの。あれ。どうしよう。顔が、熱い。机の上で止まったままのあたしの手に、ブン太の手が重なった。


「だから、絶対受かれよ。この丸井ブン太が全力で応援してんだから。」


目頭が熱い。ブン太ははにかんでいたけど、どうやらあたしはそうもいかないらしい。ブン太の手を握り返して、もう片方の手で涙を拭った。


「…あたし、気持ちは離れていかないよ。」
「は?当然だろぃ。つーか離さねぇよ。」


力強いブン太の言葉に、あたしも笑顔を返せた。


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受験話を書いてしまった…!

2012.01.22


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