笑かしたもん勝ち


イライラした。本鈴が鳴っても先生来ぃへんし、弥栄の席も空。さっき早苗が告白されそうなって、阻止されたことを俺に言うてきた。どこと無く、嬉しそうやって、良かったなぁ言うてやった。早苗は告白される度に白石と気まずなっとるから、弥栄には感謝しとるんやろなぁ。


っちゅーか、ほんまに遅い。弥栄もあのまんま校舎裏にいんのやろか。べつに気になってへんけど。せやけど、なんやろ。なんやモヤモヤしよって、しゃあないから俺もサボることにした。屋上行こ思たんやけど、きっと鍵開いてないやろし、部室も鍵あらへん。しゃあない。ほんまにしゃあないから、校舎裏にでも行ってサボるか。誰に言うてるかも分からへん。苦し紛れの言い訳に、ため息が出た。


上履きのまま外に出て、ぐるりと校舎を周って裏へ。校舎の白い少し汚い壁に背をつけ、その場でうずくまっとるのは、紛れも無く弥栄やろ。ちゅーかスカートってこと忘れとん?パンツ見えそうや。見たないけど。俺は気付くようわざと足音を鳴らして歩いとんのに、全然気付かへん。ムカつく。ついに目の前まで来てしもた。こいつ、全く動かへんわ。死んでんのとちゃう?俺は弥栄と同じような体制で、隣に腰を下ろした。こいつ、ここまで来てほんまに気付かんの?


あ、顔上げた。


目ぇ真ん丸にして、俺を見とる。春風が弥栄の髪をさわさわと揺らしとって。俺は少しだけ見とれとったんやと思う。この春風、好きやなぁって思たんや。我ながらきしょい。はっと我に返り、いつもの如くきっつく睨み付ける。


「何しとんねん!授業始まっとるんやけど。」


頭をべしっと叩いた。叩いてから気付いたんやけど、こいつに触んの初めてやった。っちゅーか俺はこいつが大嫌いなんやで?なんでこないとこに二人でおんねん、俺。自分でも理解不能やわ。


「ななななんでここんなとととこに…」


うっざ。わざとちゃうんかってくらい噛みまくっとる。ここにおる理由は、あれや。えーっと、屋上は鍵で部室も……あれ?もう分からんわ!


「まだ入学して間もない女がサボりや言うなら、連れ戻して来い言われたんや。ほんま迷惑なやっちゃなぁ!」


おぉ。よう思てもないようなこと口からぺらぺら出てきよる。誰も連れ戻せぇなんて言ってへんわ。迷惑も何も、俺は弥栄を連れ戻しにここに来たわけやないし、サボりに来たらたまたまおっただけやし。なんてアホみたいに言い訳をずらずら並べとると、弥栄はまた膝に顔を埋めた。え、なんやねん。


「なっ、ちょ、泣くなや!」


俺こんなガラちゃうで。何焦っとんねん!って自分にツッコミ。


「……大丈夫。わたし泣かないから。」


おん、意味分からへんわ。泣かへんの?そか。どうでもええけど。弥栄のくぐもった声は、確かに泣いとるような声やなかった。けどそれ以降喋ろうとせぇへん。なんやねん、この沈黙は。弥栄、帰れ思とるんやろか。せやけど、この一氏ユウジがここまで来てやっとんねん。簡単には引き下がられへんわ。


「…なんでそないへこんでんねん。意味分からんわ」


どこを見てええのか分からんから、とりあえず真っすぐ前を見た。土に、俺の上履きの跡がついとる。弥栄は何も言わへん。でも、ええねん。俺はこいつが大嫌いやけど。けど俺には出来ひんかったこと、やってもうたわけやし、そこんとこは認めたる。しゃあないからな。


「告白、邪魔するんわ、めっさ度胸必要やと思うで。」


足がきつくなって、少しだけ身体を動かした。すると、弥栄は震えた声で、ちっさく呟いたんや。


「……わたし、自分が大嫌い…、変わりたいよ…。」


もしかしたら、ずっとこうなんかな。弥栄のことは全然知らへんし、べつに知りたないけど、昔っからこうやってぐじぐじしとった女なんかな。俺が大嫌いなタイプの。せやから、弥栄もそんな自分変えたかったんかな。そんなんなら、俺かて応援はしたるで。イライラせぇへんようなるしな。頑張れや言うたら、ありがとう言われた。しかも名前つき。あれ、こいつに一氏くんとか言われるん初めてちゃう?ちょっとだけ照れくさなって、べつにって返した。アホや。


「……でもね、本当は、入学式の日にも言いたかったの。わたしの自己紹介のとき、拍手してくれてありがとう。」


何を血迷った!こいつ、何言うとんねん。拍手…あれはこいつんためやなくて。けど、弥栄が見たことないようなくらい、うれしそうにしとるから、そんなん言えへんかった。ちゅーか俺弥栄が笑っとるん見たことあらへん。こいつ、お笑いとか見るんか?人生笑かしたもん勝ちやけど、俺は弥栄にモノマネ見せたこともネタ見せたこともあらへんから、当然言えば当然なんやけど。俺は勝負にすら出とらんか。弥栄は、どんな顔して笑うんやろ。


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一氏にはツン9割デレ1割であってほしい

2012.01.29


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