中心にいつも


スマブラは昔はよう兄貴とやっとったし、鍛えられとるとは思ったんやけど。予想外に、集中できひん。やって先程、師範が謙也を撃破してくれはったんやけど。それから謙也はコントローラー投げ出して弥栄の隣にねっころがって二人で仲睦まじく喋っとるから。弥栄もそない穏やかな笑みを謙也なんかにやらんでええわ!なんやもう!ひざ枕でもしそうな空気やな!とかよそ見しとる場合あらへん。


「あ、おい白石!卑怯やぞ!」
「よそ見しとんのが悪いわ!」


あかん!気付かんうちに足場消えとった!まじかいな!


「あぁ!もう見てられへん!ユウジ交代しいやっ!ついでに飲み物買ってきて」
「はぁっ!?」


一瞬にしてコントローラー奪い取られた。早苗のやつ、意味分からん。こいつ、さっき負けたやないか!するとちらっとこっち見て、「はよ行け」とか言い出して。


「舞、ついてったり」
「えっ?わ、わたしも?」


あー、そういうこと。ほんまに、お節介っちゅーか何ちゅーか。


「あたしカルピス!蔵は?」
「あーせやったら俺は緑茶。」
「ワイも同じの頼みます。」
「アタシもカルピスー!」
「俺はコーヒーお願いします。」
「俺シークヮーサー!昨日誰かさんに取られたし!」
「頼むで、ユウジ!舞!」


知らんわ。誰の注文も何一つ覚えとらんけど、まぁ、あんま見たなかったし。俺の優勝は早苗に預けよう。別に弥栄まで来ることあらへんけど、とりあえず俺はちょっと頭冷やそう。ぐちゃぐちゃのラケバの中から財布取り出して、部屋から出た。


金は後で白石にでも請求しよう。それか部費から出してもらうわ。廊下は少しひんやりしとるし、部屋の空気篭ってたんやな。なんて考えとった時、視界の端に色鮮やかな広告が映った。ひっそりとした廊下の掲示板に、カラフルな色合いで。


『8月3日(日) 花火大会』


その広告をよくよく見ると、土日に祭もあるらしい。屋台が並んどる写真が載ってる。合宿は月曜の昼終わりやから、オサムちゃんに頼めば行けるかもしれん。とか思うた自分の思考に恥ずかしなって、広告から目をそらした。けどまぁ、もうそない季節なんか。テニスやってれば6月くらいから汗だくやし。もう、8月か。高校に入ってから四ヶ月。色んなことが変わって、色んなことを想って、色んなことがあった。その中心にはいつも、弥栄がおった訳や。これからも、きっとおる訳や。


ふー、と一つ息をついて、止めた足を動かした。なぜかさっきの仲睦まじい謙也と弥栄を思い出して切なくなった。その時に、


「ひと、うじ、くん!」
「おわっ!」


ほ、ほんまにびっくりした。突然かけられた声に全身で反応してもうた。心臓バクバク言うとるわ。


「なにほんまに来たん?ええよ俺行くから、部屋戻れ。」


早苗に何や言われたんか。べつにこんでええのに。


「えっと…に、荷物持ち!ね?」


困ったように笑いながら俺を見た。えへへ、って言うかのような。慌てて視線をそらしたけど、相変わらず心臓バクバク言うとって。けどこれ、さっきとは違うんやろな、なんてどこか冷静。俺は思とったより、こいつのことちゃんと好きなんかな。


「……分かった。頼むわ。」


弥栄ががちがちに緊張しとったのが分かる。一気に肩の力が抜けるのも分かる。もっと、普通でええのに。気ィつかわんでええのに。けど、こういう風にしてもうたんは今までの俺や。せやから言うても、これからが180度まるっきり変われる訳やない。歩き出した俺の隣に並ぶ弥栄を見て、そないなことを考えとった。


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2012.06.03


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