朝のオクラ納豆


朝は六時前に起床。顔洗ってもまだ眠たい目を擦りながら部活着に着替えて、朝練。まだ日昇ってへんが。んでもって朝練終えてから朝食とるために食堂に向かう。毎年同じなんやけど、やっぱ合宿先変わった訳やからちょっと新鮮。欠伸を噛み殺しながら、食堂に入ると味噌汁のええ匂い。


「うおっ!うまそ!」


長テーブルに並べられた朝食に目を光らせた謙也に早苗が「はよ手洗ってきー?」って言いながら食器運ぶん手伝っとった。


「お疲れさんやな、早苗」
「蔵のが大変やろ?はよ食べ」


早苗が白石のこと名前で呼ぶようなってから、二人を取り巻く空気が少し変わった気ィするわ。そんなこと考えながら、視線を泳がすと、有り得へんもん見た。思わず三度見くらいしたわ。


「あっ、あれ舞ちゃん…」


俺ら四天宝寺用の隣のテーブルは他の学校用で、同い年くらいの男がずらりと並んどって。俺らとはちごおて既に食い始めとるようやけど、その一角で弥栄が捕まっとるんが見えた。皿を運んどったんか、お盆を抱えながら男子に話し掛けられとる。困ったように曖昧に返答しとんのか。


「あ、何あれ!あのやろ…」


早苗が気付いてそっち向かおうとする前に、俺の足の方が速かった。信じられんくらい冷静で、けど力強い一歩。こっちに背中向けとる弥栄の手首を後ろに引っ張った。


「わっ、え、あれ、一氏くん…?」


座ったまま俺を睨み付けてくる男。むかつくから俺も上から睨み返したるわ。


「うちのマネにちょっかい出すなや」


朝飯やっちゅーのにイライラ。弥栄の手を引っ張ってその男の前から立ち去る。


「皿運ぶん途中のくせに、ちょっかいなんや掛けられよって。ちゃんと仕事しいや。」
「えっ、う、うん…」
「ユウく〜ん!」


テーブルから俺を呼ぶ小春の声。「はよ朝メシ食べようや」って手招きしとる白石のニヤニヤした表情に、カァッと身体中熱なって。弥栄の手を思いっきり離した。


「…?あっち行かないの?」


すでに小春たちは座っとるけど早苗はいまだにバタバタ忙しそうで。弥栄もまだ仕事あるんやろな。「や、先食っとるわ」言うて俺も小春たちのおるテーブルに向かった。


「ユウくんも男やね!」
「ひゅーひゅー!」


悪ノリしとる謙也を一発叩いて、俺も椅子に座る。合宿所のメシって案外しっかりしとって、俺の好きな和食。


「うおっ!オクラ!オクラある!」


味噌汁の横に置かれた小鉢にオクラ納豆があってテンション上がった。


「よかったなあ、ユウくん」
「ちょ、謙也どうせ食わへんやろ?くれ!」
「いや、食うし。」
「くっそ謙也のくせに生意気やな。財前に言い付けたろ。」
「なっ!やめろ!」


オクラ納豆のおかげで朝からテンション高めで米口にかき入れながら謙也からかっとったら、不意に隣の椅子が引かれた。


「こっ、ここここ、いいかなっ…?」


白石の隣にも早苗が戻ってきとって、当然のように俺の隣にきた弥栄に、ちょっと嬉しかったりする、けど。そんなん絶対言わへん。


「噛み噛みやな、ぐず女。」
「……そんなこと言うんなら、オクラあげないよ?」
「え!くれるん!?くれるんか!」
「え…う、うん。いいよ?」


俺の方に小鉢差し出してくれて。あかん、めっさ嬉しい。色々嬉しい。朝から幸せや。


「一氏くん、ほんとにオクラ好きなんだね…」
「おん!めっちゃす…や、別に」


…何なん、向かい側でニヤニヤニヤニヤ俺と弥栄を見比べとる奴ら。そないにおもろいんか?…悔しいな。いつか、白石と早苗みたいな周りにも当然のように思われる関係になれるんやろか?…別になりたないけど。


「午前練も頑張ってね。」
「…おおきに。」


自分のより、弥栄に貰ったオクラ納豆の方がうまい気ィしてん。


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ユウジがオクラ納豆であんなに喜んでたら萌える
2012.05.14


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