人間らしい表情


ロングホームルームっちゅーのは思とったより長い。なにがロングホームルームや。今日のはロングロングロングホームルームやわ。


「ユウジなにぶつぶつ言うとんねん。」
「腹減った。」
「まだ早苗来てへんやろ。」
「小春やって弥栄さん呼びに行ってるやろうし。」


早苗はともかくとして、なんで弥栄連れてくんねん。ほんま嫌や。それが顔に出とったんか、謙也が苦笑を浮かべた。


「ユウジは舞ちゃんのなにがそない気に入らんの?めっちゃ一生懸命でえぇ子やん、なぁ白石。」
「おん…せやなぁ…」
「あかんわ。白石、早苗と同じクラスなれんかったからて落ち込みすぎやで。」
「えぇなぁ、ユウジは…」


オイ白石、昔の威厳はどこ行ってもうた。気の抜けた表情をする白石の頬をぺしりと叩いた。痛い…と魂抜けたよう言うんやから、相当やな。愛されてんなぁ早苗。そん時、屋上の金属製のドアが音を立てた。


「あ、早苗や。」
「早苗ー。遅かったやん。」


立ち直りはや。んでもっていつもの男前白石に戻っとる。恋の力て偉大やな。


「舞ちゃんもおる。」


謙也の小さな呟きに早苗の方に視線をやると、後ろにちょこんと弥栄がおった。なんで小春より先に来てんねん。


「…小春はどないした。」


普段よりドスの利いた声が出た。自分でもびっくりや。そんな俺の問い掛けに小春おらへんのと問い掛けで返したんは早苗。ちゃっかり俺と白石の間に腰を下ろし、俺に話し掛けてきよった。何となく、機嫌悪いんが直る気がした。


「小春どこ行っとるん?」
「4組にこの女迎えに行きよった。」
「なに、この女って。仲悪いん?」
「仲悪いも何も嫌いやわ。」
「まぁ…しゃあないわなぁ。」


早苗は俺が女嫌いになった理由を知っとるわけやし、そう言ってくれる。それがすごく救われるんや。と、何故か右隣の謙也が飲んどったジュースを吹き出しとった。え、なんやねん。


「謙也、ビミョーに掛かったんやけど。おまえの唾液付き紅茶花伝。」
「うわっ生々しい言い方やなぁ。謙也口の周り大変なことになっとるで。」
「すまんすまん。」


弥栄がなんや言ったんか、物凄い勢いで白石に謝っとった。ちらりと早苗を見れば、少しだけ悲しげやった。やっぱあいつもそうやろ。テニス部目当てで早苗に話し掛けて、小春やって使っとるだけやろ。そんな輩は中学ん時に腐るほど見てきたわ。そこでようやく小春が来て、弥栄の隣に腰を下ろした。


「舞ちゃ〜ん!もう来とったん?探したんやで〜」
「小春ちゃん!?え、探した?わたしを?」


なんも知らんような顔して。ほんまこいつ腹立つ。


「おまえが一人やと思ったから小春がわざわざ1組からわざわざ呼びにいったんに、おまえはのこのこ早苗について先に来たんやろ。ほんま小春の手ぇ煩わせんなや。」


こないなこと言うても、こいつは初めて会ったときみたいに目を丸くするだけやと思った。せやけど、こう言うのも変やけど、弥栄はちゃんと傷付いたような顔をした。あん時とちごうて、人間らしい表情やった。俺は思わず顔を背けた。


「ごめんね…」
「やぁ〜ねぇ〜、全然気にしてへんわ。一氏の言うことは無視してええから。ささ、ご飯食べましょか。」


一氏、か。小春怒っとるやろな。せやけど俺は謝らん。こいつは絶対、白石には近付けさせへん。早苗が傷付くような顔は見たないんや。


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2012.01.24


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