プライド


気になっとらん、と言ったら嘘になる。でも別に行ってほしないって訳でもない。行きたいなら行けばええ。大方、菊丸に会いたいとかそんなんやろ。弥栄がおらんようなって、みんな悲しむんやろなぁ。小春はああ言っとったけど、寂しいんやないんか。早苗やって初めて出来た本物の友達やろうし、白石もケンヤも部長やって、やっとちゃんと働いてくれるマネージャー手に入れたのに、手放すことになるんやからな。けど、そないみんなを捨ててまで東京に戻りたい言うんなら、勝手にすればええねん。


「ユーウージー!」


はっ、と我に返ると、隣には早苗がおった。そうや、部活中やった。誰もおらん水呑場で水だけ流しっぱなしにしながらぼーっとしとった。慌てて外しとったヘアバンを付けて早苗の方に振り返った。


「えらいぼーっとしとるな?」
「そうか?」
「な、ユウジ。今、気になっとる人とかおらん?」


脈絡のなさすぎる発言に唖然とした。っちゅーか、なんで早苗がそないなこと聞いてくんねん。


「あたし、ずっとユウジに助けてもらっとったから、」
「うっといわ。」


初めてやった。早苗に暴言とか、今までありえへんことで。けど、やって、しゃあないやん。そないなこと言われたって、弥栄は東京行ってまうんやから。こんなん考えとる時点で、行ってほしないってことは明確なんやけど。悔しいから絶対認めへん。


「…すまん。」
「なんか、やっと舞の気持ち分かった気するわ。」


切なげに微笑む早苗に、本気で申し訳なくなった。けど、そこに弥栄の名前が登場して、思ったより動揺した。


「え?」
「やって、あたしには言わへんかったやろ?実際言われてみると、結構きついんやな。」
「……すまん。」
「舞はすごいな。ユウジにあんだけ言われとっても、一氏くんはすごいねーって。あたしは舞の方がすごいと思うわ。」


早苗が何を言いにここまで来たんか、ちょっと分かった気する。弥栄となんかあったんか。はたまた、転校の話でも聞いたんか。俺もそう思う、なんてことは言えへんで、唾を飲み込んだ。


「…舞のこと、好きなんやったら、はよ行動に移した方がええで?」


え、って微かに声が漏れた。今、好きって言うたか?俺が?あのぐず女を?まさか。


「冗談やめや。嫌いやっていつも言っとるやろ。」


なぜかすごい心臓がどくどく言っとって。けど、これは早苗と話しとるからやない。それだけは、分かっとる。頭ん中ぐるぐるしよって、目を泳がせとる俺を見て、早苗はクスクスと笑った。


「ユウジ、気付いてへんの?」
「な、なにをや。」
「ここ最近ずっと元気あらへんで、心配やったんやけど……」


ちゃうねん。ちゃうって言ったりたいのに、口が動いてくれへんの。


「それって、舞が東京行ってまうって聞いてからやろ?」


全力で否定したいのに硬直してもうて、まるで身体中で肯定しとるみたい。遠くで、休憩時間の終わりを知らせる部長の声がしとる。あかん、部活戻らな。


「…ユウジが行くな言うたら、あの子絶対行かんと思う。」


俺が、言うたら?菊丸を捨ててまで大阪におってくれる?まさか。そないなこと、絶対ありえへん。何の根拠もあらへんくせに。そもそも、行かんでほしい訳でもない。けどもし、もしも本当に俺の言葉で転校やめるんやったら、俺は今までのプライドを捨ててまで、行くななんて言えるんやろか…?


―――――――――――――


この時点で、早苗はもう転校しないことを知ってます
なんか、交互に読まないと話分からないんじゃ…?
とりあえずユウジソロデビュー嬉しすぎる

2012.04.07


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