終わりと始まりの狭間
びしょ濡れのまま部室に駆け込むと、弾かれたように早苗が振り返った。めっさ驚いとるけど、それは俺も同じ。なんと白石までおるやないか。なんや、二人して神妙な顔つきしよって。俺の話しとったってバレバレや。
「…えーっと、」
いたたまれなさに負けて、ぽりぽりと頭を掻いた。俺的にはさっき弥栄に話したからなんやすっきりしてもうて。逆に清々しいくらいや。けど白石と早苗はそうやないんやろなぁ。早苗なんていかにも「罪悪感に苛まれとります」っちゅー顔しとる。別に、そないな顔せんでもええのに。俺はそないな顔見たくて好きんなった訳やない。
「ユウジ…」
白石が、すっと前に身体を出した。まるで悪者から早苗を守るように。そうか、悪者は俺か。
「…すまん。」
悪者がこない素直に謝る訳はないけど。やって俺はこの二人の邪魔をしよなんて一度たりとも考えたことはないから。っちゅーかむしろ、今ははよこの二人仲直りさせたりたい。
「…早苗んこと、好きなんやって?」
白石の怒気の篭った声。めっちゃキレとるんかいな。あーほんま申し訳ない。
「ちゃうよな、ユウジ。好きって、友達として、やろ?」
そうであってほしいっちゅー懇願が目に見える。早苗は、そないに俺の気持ちを否定すんのかい。うっわー悲しい。けど、まぁええ機会やしな。
「…好きやった。ほんまに。」
はっと息を飲む音が二人分。早苗なんてもう泣きそうやし。そないに傷付いた表情せんでほしい。けど、やっと俺の気持ちが伝えられた思うと、やっぱり嬉しい。もう消え失せた想いやったけど、知ってもらえてよかったわ。
「けど、今は、ちゃうから。今は…友達としか思ってへん。」
真っすぐ前を、早苗の目を見てこないなこと言う日が来るなんて、夢にも思わんかった。早苗を好きんなって切なくなって、白石とうまくいって苦しなって、いつの間にか好きやなくなって救われて、幸せそうな二人を見て心底応援しとった。たった二、三年で劇的な変化を遂げたんは、やっぱり弥栄の影響なんやろか。そう考えると、なんやおかしなって少しわろてしもた。
「ユウジ?」
「あ、や、何でもあらへん。とにかく!誰が言うたんか知らんけどな、その情報はもう古いんや。俺はこれからも友達として早苗のこと支えたりたいし、白石とやって仲良うしとりたい。ダメ?」
ちょっと強気にそう言えば、二人は呆気にとられてぽかんとしとる。ここ何日か、白石も早苗も不安でしゃーなかったんやろけど、それが一瞬で杞憂に終わったんやからな。
「…ダメやない。」
弱々しく、首を振った。それから薄く笑みを浮かべてもう一度「ダメやないで」と言った。救われた気がした。俺のしてきたことは間違いやなかったんかなって思えた。
「じゃ、そういうことで。邪魔して悪かったなー!」
出来るだけ明るく、変な罪悪感なんやもう感じさせへんように言うて、俺は二人に背中を向けた。ドアを開けようとしたところで、お決まりのように早苗が俺の名前を呼んだ。その声にどきどきしたのも、もう昔の話。
「ユウジ、おおきにっ!」
一瞬、何に対しての言葉なのか分からんかった。諦めてくれておおきに?友達でおってくれておおきに?好きんなってくれて…、おおきに?分からんのに、ほんまに、こう、胸かあったかいっちゅーか。俺ん中にあった未練も、今は姿形もない。けど何も言えなくて、俺はそのまま部室を出た。俺の一方的な三角関係は幕を閉じたっちゅー訳や。
「…雨や。」
そうやった。忘れとったわ。乾きかけた制服、また濡らさなあかんのか。学ランの上着だけでも教室置いてくればよかった。帰ったら制服しわくちゃでオカンにしばき倒されるわ。ため息をついて、雨ん中に飛び出そうとした時やった。
「一氏くんっ!」
雨が、止んだ気がした。
―――――――――――――
ぎゃーいいとこで!!
そんでもって白石空気
2012.03.26
[ 35/57 ][←] [→]