雲行きが怪しい


おかしい、と思った。最初の違和感は、目ぇそらされた時。びっくりするくらいわざとらしく、俺を避けとった。確信したのは今日の昼休み。弥栄と二人で食うとか言い出して。


「珍しいなぁー、早苗ちゃんが放送ないのにけーへんとか。」


今日の昼放送の当番は謙也やって。せやから、昼は俺と小春と白石と小石川。銀さんは仏閣愛好会の仲間と一緒やろ。


「ほんまやぁ…」
「蔵リン危機やん。このまま早苗ちゃん、舞ちゃんにとられてまうかもな!」
「まぁ早苗にとって弥栄は結構大事な友達やしな。」


早苗が白石と付き合い始めたとき、俺は友達として彼女の隣におると決めたんや。あいつが俺を頼っとんのは分かっとったから。それが嬉しかった。その役を、今は弥栄がやっとるんやろ?今となっては別にかまへんけど。ほんまに、避けられとる気がする…


「早苗に女友達できたんはめっちゃ嬉しいけど、なんや寂しいわぁ…」


ちゅー、といちごみるくを吸い上げながら、白石の言葉に少し共感した。めっちゃ早口で喋る謙也の放送をBGMに、俺らは昼メシを終えた。


「ちょお早苗に会ってくるわ」言うて白石が4組に走った後、俺は小春連れて階段踊り場の窓際に行った。


「あー癒されるわー…」
「ユウくん、元気あらへんね?何かあったん?」


さすがは小春。長年俺の相方やっとるだけあるわ。こんなん言えるん、小春だけや。


「……俺、早苗に避けられとる。」
「え?ほんまに?」
「おん。けど怒らせた覚えとかないねん。なんやろ…」


頭のバンド取ってガシガシ掻いた。意味分からんもん。なんで俺が避けられなあかんねん。


「ユウくん、それ取ったらほんまイケメンやね。」
「小春がそない言うんやったら、一生付けへんで?」
「あ、別にええわ。好きにして」


ガーン、と効果音付きそうなくらい落ち込んだ。ほんまに小春は思わせ振りっちゅーか。


「ほんまに、ユウジかっこいいわぁ。」


突然階段に響いた女の声にビクッとした。わー、こいつらあれや、自称ファンや。階段から降りてきとるっぽいけど、俺は気付かん振りして窓から外を眺めとった。


「っちゅーか何なん、あの女!」
「ほんまムカつくわ、弥栄。一回シメたろか。」
「けどユウジが弥栄嫌ってくれてよかったなぁ!」
「せやな。折原には手ぇ出せんけど、弥栄にはやりたい放題やで?」


な、なんちゅー話を公共の場でしてんねん。確かにこの階段は人少ないけど、一応俺らおんねんで?女共が姿を消した後、俺は深いため息をついた。そんで、横で小春が冷静に分析し始めた。


「けど、あの子らもユウくんへの愛うっすいなー」
「は?」
「やって、ユウくん、それ付けてへんからバレへんかったんやで?付けてたら絶対『ユウジー!』言うて飛び付いてきたわ。」


あ、確かに。手に持ったままの緑のバンドを見て、少し納得。これで俺んこと判断しとるんか、あいつら。っちゅーか、俺のアイデンティティって一体…


「それにしても、物騒なこと言っとったなぁ、ユウくんのファンの子ら。」
「ん〜、まぁ弥栄やったら大丈夫やろ。」


何かあったら、泣きついてくるやろ。っちゅーかむしろ泣き付けや、とか思ったのは何故。自分きしょいわ。邪念を振り払うために頭をぶんぶん振った。けど小春は華麗にスルー。


「けど、あの子ら、ユウくんが早苗ちゃんのこと好きなんやったの、知っとるな。」
「はぁ?んな訳あるかい。小春と財前だけやろ?知っとるん。」
「ちゃうねんなぁ。やって、早苗ちゃんには手ぇ出せへん言うてたやろ?それはユウくんが早苗ちゃんのこと好きや、って思っとるからや。それにあの子ら、随分真っすぐにユウくん見とったからなぁ。どっかで気付くこともあったんやない?」


頭を抱え込んだ。そんな、まさか、とは思ったけど。まさか。早苗が、気付いた?いや、有り得へんやろ。今までやってずっと俺は特別扱いしとった。周りに言われても、早苗は俺を友達だと言った。だからもう、誰も何も言わなくなった。男女の友情は成り立つってみんな思って。早苗やって、そう思ってる。俺も、今は胸張って友達やって言える。今更…


「にしても、舞ちゃん大丈夫かしら?」
「……」


雲行きが怪しい。外も、雨が降りそうやった。


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交錯(ryと光彩(ryの話数が合わないよう
ユウジの日常をもっと書こうそうしよう!

2012.03.10


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