咄嗟の機転


サイアクや。弥栄がうじうじしとるせいで、初の遅刻。学校に遅刻することはあっても、ライブを遅らすことは今までなかった。クソ、全部あいつのせいや。やっぱりあいつ、ごっつ嫌いやねん。嫌い。けどなんでか。今日の、あいつが初めて見に来るライブが、今まで一番気合い入っとる。


「あっ、ユウくん!」


体育館の舞台裏には多目的室っちゅー特に使える要素もない部屋があって、ライブの日はそこを控室にしとる。小春が部屋の前で待っとったのか、俺を見るなり飛んできた。せやから俺も小春の胸に飛び込む。


「小春ー!今日は絶好調や!」
「えーからはよ準備しーや!」


小春の裏拳が腹に命中。いたい。いたいけどこれは小春の愛情表現や。腹を抱え込む俺に本日の台本、と言うか俺のネタ帳を押し付けて小春はさっさと立ち去ってもうた。う、いたい。時計を見ると15時半を少し過ぎたところやった。まずい、ほんまに遅刻や!俺はぺらぺらとネタを確認して、舞台へ急いだ。


(今日もケンヤ財前ネタで爆笑巻き起こしたるで!)


舞台の袖から様子を伺うと、前方のパイプ椅子にはいつものケバい女どもがおった。よう毎回一番前取れるな。少し呆れる。んで、遅いぞ一氏ー!と言うヤジが飛ばされ、俺はマイクの前に立った。


「待たせたな、おまえら!今日も気が済むまで、俺様の美技に酔いなっ!」


悲鳴かと思われるほどの黄色い声。氷帝のあほべのマネやしな。分からんやつおらんよな。よっしゃ、掴みはOK牧場。


「高校入って初のモノマネLIVE、どうや!?」


サイコー!、とパイプ椅子に座っとる女どもが口を揃えて叫んだ。ほんま、ようやるわ。いっつもおるし、嫌でも覚えてまう。そんとき、一番後ろの壁際に一列に並んだ目立つ集団を発見。右からケンヤ、白石、早苗、弥栄、小春。俺って目ぇいいわさすがやな。


「ほな、いつものコーナーや!浪速のスピスタピアスのモノマネ漫才!ピアスの方は高校にはおらへんけど、知らんやつおらへんなー!?」


おらへんー!って叫ぶ女。けど、はっと思い出すと、中学んときはおらんかった弥栄が今はおんねん。あ、やば。目ぇ合った。不安げな、無理矢理笑おうとしとんのか、そんなふうに見えた。


「あー…っと、けど、あれやなぁ…」


どないしよ。やばい。他のネタとか考えとらんかったし、けど分からんネタを披露したとこであいつは全然おもんないやろ。脳内でネタ帳の中身を探す。無理。あ、こないだ新しくメモったやつ。


「…最近、スピスタピアス一緒におらへんし、ネタなくってたん忘れとった!スマン!」


女どもがえぇーって口揃えて文句。うっさいんじゃボケ。


「堪忍なー!っちゅーことで、テニス部の日常高校生バージョンをお送りするで!」


そう、これや。こないだまた白石とケンヤが不毛な会話しとって、早苗と弥栄がそれを聞いて笑っとった。これなら分かるやろ。白石とケンヤと小春の声マネで一人で会話を成り立たせる俺、天才的ィ!


三人の真似をひたすらやっとると、体育館の一番後ろで笑う弥栄が視界に入った。あぁ、よかったって思ったんや。


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管理人ギャグセン皆無ですので高校生の不毛な会話って思い付かない…!
すみません

2012.02.10


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