ちぎって刻んで焼却炉


高校に入って、初のモノマネライブ。全く緊張していないわけやないけど。いろんな人が俺の芸で笑ってくれるのは嬉しい。やっぱり人生笑かしたモン勝ちやわ。


掃除で黒板を消してたときやった。教壇の上にいた俺の周りには何故か、人がおった。


「一氏、モノマネやってや!」
「俺ら今日部活すぐ始まるからライブ行けへんの!代わりに今やって!」


サッカー部のやつら。中学のときも同じクラスになったことある人とかおるし、休み時間も一緒にサッカーやったりしたこともある。表面上の付き合いであることには変わりないんやけど。まぁべつにこいつらオモロイし、どっちかっちゅーと好き。ん、まぁええか。


「そんなん言わんと、はよ掃除しーや!」


わっはっは、と沸き起こる笑い声。今のは担任のマネや。教室の端で本人がなんや怒鳴っとった。ウケる。


「なぁなぁ!一氏って女のモノマネも出来るん?グラビアのマネとか!」
「できるかアホ!まず声域ちゃうし。っちゅーか、俺の格好で喘ぎ声とかきもいやろ!」
「あ、そこは平気。ちゃんと目ぇつぶるから!」
「変態!」


げらげらと笑い声が響く。ほんま男ってアホやな。んで、アホな話しとったらもう時間やった。15時20分。そろそろ行こか。


「さぁーって、そろそろ時間や!早苗行くでー」


早苗は弥栄の机に頬杖をついて少々機嫌が悪そうやった。なんやねん。んで、訳も分かっとらん弥栄がどこ行くのかと聞いたから、早苗が説明しとった。もう、結構急がなあかんのやけど。早苗はそのまま俺と弥栄を残して教室の扉に向かっとった。ちょ、待っ、なんでこいつ置いてくねん。っちゅーか、なんでこいつこんなに真っすぐ俺のこと見とんの?壊れたか?いや、何となく言いたいことは分かる。モノマネLIVEなんてやるの、すごいね!ってアホみたいに目をキラキラさせとる。


(な、なぜ分かった…!)


自分でもびっくりや。ちょっとだけ、動揺した。そんとき、早苗がドアのとこから俺を呼んだ。やばい、こんなやつの相手しとる暇ないんやった。今日かて俺のライブ楽しみにしとってくれる人ぎょーさんおるわけやし。なのに、なんで


「がんばってね。」


ざけんなブス!、って率直に思った。最悪や、こいつ。ほんまイライラする。イライラすんのに、なんで来ないんやって内心さらにイライラしとる。訳分からんわ。


「何言うとんねん!はよ来いや!」


べつに、こいつが来ーへんでも俺は構わないんやけど。断じて見に来てほしいなんて思ってへんけど。


「わわたし、行ってもいいのでしょうか…?」


おどおどと言うこいつの、何が嫌いかって。まず、おどおどしとるとこ。それから、うじうじしとるとこ。もじもじしとるとこ。ぐじぐじしとるとこ。自分の意見を言わへんとこ。まぁ全部同じようなモンやな。けど、たぶんこれが一番いや。自分を卑下しとるとこ。もっと、もっともっと自信持てや。


「はよ来い言うてるやろ!おまえのその耳はなんや!飾りか?ちぎって刻んで焼却炉に放り込んだろか!死なすど!」


けど、俺の性格上そんなこと口が裂けても言えへん。こんなことしか言えへんのやけど。でもおまえも来てええんやでってことを言いたかった。


なんや、自分、ほんまきしょいわ。嫌いなやつとは喋らない近づかない関わらない。そうやって生きてきたのに、弥栄のせいで、おかしなりそう。そんな思考を振り払うよう、廊下を全力疾走して体育館に向かった。


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つ か れ た

2012.02.08


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