人生取捨選択の連続や


盗み聞きはあかん思ても、足が動かへん。この噴水悪魔おるんやないのかと疑ってしまうほど、体が重なった気がした。話の続きが気になる。


「無理って…、酷いなあ。」


その男は、あははと笑ってはった。あら結構きついで、名前。好きな女に無理て言われるなんて。ほんま残酷な女やで。ま、それもそうか。彼氏を他の男達のために振ってまうんやからな。幼なじみて、そんな凄いもんなんか?


「志摩のことが好きなの?」


おい男!何余計なこと聞いとんねん!俺は振られたも同然なんやぞ?傷をえぐるような真似はやめてや。案の定名前は首を横に振りよった。うわ、ほんまにやりよった名前。さすがの俺も傷つくえ。


「でもね…いっぱい考えたよ。それで思ったの。人生って取捨選択の連続だよね。」


何いきなり語っとんの、あいつ。


「全てのものが、拾うか捨てるかで分けられる。あたし、勝呂達ほど大事なものはない。」
「あの三人組?」
「うん。あたしは…、志摩のためにあなたを捨てられても、あなたのために志摩を捨てることは出来ないの。」


名前のことを残酷な人間だと思う前に、喜んでまう俺も、残酷なんやろか。名前は気付いてへんやろけど、さっきは坊達言うたけど今は俺の名前しか言ってへんのやで。


「…そっか。」
「ごめん。」
「いや…。じゃあ、俺行くわ。」


ああやって、今までの彼氏も振ってきたんか。アホみたいやん。なんで気付かへんねや。


あの男が去った後、名前は小さく溜め息をついた。


「…名前。」
「わっ!なに?志摩か、びっくりした〜。」


あれ、思とったより全然普通やん。相当びびったらしい。あはは、と照れたように笑っとる。俺はさっきの男が座とったのとは逆側の、名前の隣に腰を下ろした。


「ね、もしかして聞いてた?」
「ほんま残酷な女やな、名前て。」
「よく言われる。」


俺も振られんかな。せっかく名前の大事な幼なじみなれた言うんに、振られんかな。俺は…捨てられたない。


いきなり怖なって、言葉が突っ掛かって出て来いひんかった。


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