穴があったら入りたい


小学生の頃の片思いはすぐ終わった。せやから俺はそこまで辛い思いはせんで済んだ。せやけど中学生の頃の両思いは、言うより他の男と付き合うてた頃はほんまにしんどかった。これでもか、ってほどの惚気話を聞かされ、早よ別れればいい思てた。したらほんまにすぐ別れよったが。坊や子猫さんも気付いてはったんやろ、俺のことよく心配してくれはった。ただ名前はやっぱり気付かんと、俺をずたずたに傷付ける。しゃあないことなん。名前と俺はただの幼なじみやさかい。


で、ここまで我慢させよって、私の気持ち分かるはずないて…、喧嘩売っとるとしか思われへん。せやけど流れに身を任せたら、こんなんなってしもた。名前を抱きしめるのは初めてや。緊張する。


せやけど、名前は何も言ってくれへん。さすがに気付くやろな、俺の気持ち。いつもみたいに、冗談やめろって怒鳴ってくれた方がマシや。借りてきた猫状態やな。


「……」


な、なんか言ってくれや!


負けました。気まずすぎる空気を打開すべく、俺はゆっくり名前を離した。それでも何も言ってくれへん。固まっとる?


「えっと…名前?」


名前は何も言わず、俺と目も合わせない。そして何を思い立ったのか、さっと立ち去りよった。ええ!?俺の告白スルー!?


「ってことなんですよ〜!」


塾が始まる前、俺は珍しく奥村くんの隣に座って昼のことを話した。黒板真ん前の中央や。奥村くんを挟むように杜山さんもおる。


「知らねーよ!欝陶しい!」
「そないなこと言わんでや。俺かて真面目に悩んどるんやて。」
「志摩くんは名前ちゃんのこと、大好きなんだね。」


天使みたいやわ、杜山さん。かわええなあ、と思とると、奥村くんがえらい機嫌悪そうにしよる。ああ、嫉妬せえへんでな?女の子好きやけど、名前以外は基本どうでもええから。


「どないしたらええかな?」
「謝ればいいだろ?」
「謝る!?俺悪いことしよったか?はっきり告白した訳でもないのに?」


本気で頭を抱え込んどると、教室の入口に人影を発見した。いや、名前やったけど。なんや顔真っ赤にさせて、怒ってはる様子。普通に戻っとるのか思て、声を掛けようとするも、杜山さんの言葉に玉砕や。


「名前ちゃん、ずっとそこにいたよ。気付かなかったの?」


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