勘違い男


「大切な女やさかい。そこは坊にも譲れへん。」


彼氏の真剣な声色。同時に教室の扉を開けた名前は気まずさを感じ、閉めた。静まり返っている廊下で唯一、心臓だけがバクバク言っていた。するとすぐに中から扉が開いた。


「何しとんの?入りや。」
「う、うん。」


廉造に促されて教室に入ると、まず出雲がニヤニヤしたいやらしい笑みを浮かべているのに気付いた。目が合って思わず名前は視線を逸らす。そして次に恐面の勝呂、少し焦ったような三輪。廉造は勝呂の後ろの席に名前を座らせ、その隣に自分も座った。居づらくて仕方ないことこの上ない。自然と名前の肩に力が入った。


「名前、大変なんですよー。坊が、」
「だから言うとらんやろ!志摩ええ加減にせんとシバくえ!」
「そ、そうですよ、志摩さん。誰も名前さんのこと狙ったりなんて…、」


何の話か分からなかった名前もだんだん理解してきて、隣のピンク頭を叩いた。何すんの、と涙目でこちらを見るも、軽くシカトを決め込み、勝呂に向き直る。


「ごめんね、勝呂。廉造がまたなんか余計なこと。」
「ええよ。名前は悪うない。」
「ちょお、二人で話進めんといてやー。俺も悪うないですー。」
「本当?じゃあ今度は廉造何言ったの?」


名前としては、毎度のこと廉造が勝手に勘違いして喧嘩を吹っ掛けるものだから、全く信用出来ない訳で。そこで常に中立的説明役の三輪に話を伺うと。


「今日名前さん、購買のパン買えんかったんですよね?しょんぼり帰る姿見えたんです。それで坊が、可哀相やから今度から名前さんの分も先に買ったらどうや、って志摩さんに提案しはったんですよ。したら、志摩さん、ついに名前さんに惚れてまったか言い始めて…。」


全くもって理解できない。相変わらずニコニコしている廉造をもう一発叩いた。


「アホ!勝呂に迷惑かけるな!」
「なっ!名前はどっちの味方なんや!」
「正しい方の味方よ!本当にごめんね、勝呂。パンお願いしてもいいの?」
「ええけど…」
「廉造は知らない。人様に迷惑かけるアホはもう知りません。」
「そんな〜、堪忍え〜」


ふん、とそっぽを向く名前に勝呂と三輪も少し呆れつつ体を前に向け直した。背後でいまだ続くカップルの攻防戦に、二人して溜め息をつく。


とりあえず、あの勘違い男、何とかしてくれや。


―――


オチなしw
最初の台詞を言わせたかっただけです

2011.08.19


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