盗み聞きはいかん


「志摩に彼女がいるとは思わなかった。」


不本意ながら、授業が終わった後前回の小テストが悪かった奥村君の補習に付き合うことになった。珍しく廉造は頑張ったらしい。こんなことなら勉強せんでよかったんに!、と悔しがっていた。いやいや、補習は奥村君だけで良かったよ。廉造の相手までしてられない。しかし奥村君は本当に物分かりが悪い。何度説明しても理解してくれない問題を、再び解説しようとした時だ。奥村君はもう諦めたのか、私に話を振ってきた。


「そんなことどうでもいいの。それよりこの問題理解して。私早く帰りたいんだよね。」
「志摩が待ってるから?」
「シバき倒すぞ。」


奥村君を睨み上げると、彼は顔を真っ青に染め上げた。おそらく廉造は教室の外で扉にピッタリ身体を密着させて盗み聞きしているだろう。早めに終わらせたい。


「で、分かった?」
「……」


こいつ、話を聞いてない。奥村君は眉間にシワを寄せながら私を凝視していた。はあ、と深い溜め息が出た。


「私と志摩君が付き合ってたら何?奥村君に支障はないでしょ?」
「いや…志摩の持ってるエロ本の多さがおかしくて…」


つまり、奥村君が言いたいのはこういうことだろう。彼女持ちのくせに、なんであんなに持っているのか、と。私の本棚に溜め込んだエロ本。この間数えたら30冊は越えていた。


「それならずらりと私の本棚に並んでるわよ。」
「なんでそんなに。」
「…さあ?育ち盛りだから性欲も大きいんじゃない?」


適当に返すと、奥村君は腕を組んでう〜ん、と唸った。何、納得出来ないの?廉造の頭の中なんて私は知らないよ。そんなことより、生徒とこんな会話をすることに可笑しくなった。


「名前はそれでいいのか?」
「別に。」


志摩の女好きは今に始まったことではない。私にはどうしようもないから。彼女の部屋で堂々と読む廉造は少しおかしいとは思うけど、それが私たちだ。


「それに、裏で隠れて読むより、私の前で堂々と読んでる方がいい。無駄に疑わなくて済むし。」


納得したのかしていないのか、ふーんとだけ答えて奥村君はシャープペンを握り直した。廉造は今の話を一字一句聞き逃さずに聞いていたに違いない。次の日、本棚には雑誌だけでなくAVが増えていた。


―――


2011.12.11


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