嫉妬し合うバカップル


いつものように塾が終わった後、夕飯の材料を買いに行く。今日は廉造もついて来てくれて、他愛ない会話を交わしながら歩くこの時間が好きだった。なのに。


「廉造っ!」


私はもともと声は低めだが、そんな私より1オクターブ高いんじゃないか、ってくらい女の子らしい声が廉造を呼んだ。誰だ、あの女は。隣で廉造は気まずそうにしている。私はわざとらしく深い溜め息をこぼし、彼と目を合わせた。


「先行ってるね。」


廉造をおいて先に店に向かった。勿論追い掛けてはくれない。嫌じゃない、と言ったら嘘になる。でも私は年上だし、子供じみた独占欲に駆られている暇はないのだ。背後で交わされる男女の声に気付かぬ振りをして、私は店に入った。


「あれ?名前じゃねーか?」


声に驚き、顔を上げると、奥村兄弟が揃ってこちらを見ていた。珍しく奥村君も雪男も私服だが、塾の後だから確かにそれも頷ける。


「お一人ですか?」
「あー…、まあ。」


雪男は何かと鋭い。廉造との交際も、きっと知っているだろう。思った通り、雪男は笑顔を浮かべながら、志摩君は一緒では?、と尋ねてきた。隣で奥村君はきょとんとしている。双子なのに、何故こんなに違うのだろう。


「志摩君?一緒なはずないじゃない。」
「名前さん気付いてないようですが、志摩君と二人で買い物しているところ、度々見かけますよ。」


唖然。見られていたなんて。でもこんなに近場で二人で行動していたから、ばれてもおかしくはなかった。隠すのを徹底しなかったのも、悪い事はしていない、という私達の考えの表れでもあるのだ。


「……否定はしない。」
「肯定してくださいよ。」


穏やかに笑う雪男。まだ話について来れない奥村君に痺れを切らし、雪男は真相を口にした。


「つまり、名前さんと志摩君が付き合ってるって事だよ。分かった?兄さん。」
「ええ!?志摩って彼女いたのか!しかも名前!?」


うん。予想通りの反応。本当に奥村君は期待を裏切らない。


「で、志摩君は?」
「知らない女と楽しくお喋り中よ。」


ありのままのことを話しただけなのに、雪男は笑った。そして彼の手が私の頭に載る。それからその手が頭を優しく撫でた。


「嫉妬ですか?可愛いですね。」


不覚にも、一瞬ドキッとした。が、またその次の一瞬で自分の手に強い力を感じた。崩しかけた身体のバランスを整え、見上げると笑顔の廉造がいた。


「こんばんは、志摩君。」
「よっ志摩!」


廉造は相変わらずにこにこしているが、どこと無く、怒りを感じる。そして握られた手首が痛いのですが。


「若先生に奥村君やないですか。こんばんは〜。」
「じゃあ僕たちはこの辺で。また明日、名前さん。」


雪男、絶対面白がってるな。あの眼鏡の裏には何を隠しているのやら。


「…勝手に触らすなや。」


立ち去る二人の背中を睨み付け、小さく呟く廉造が、何故かとても愛おしかった。


―――


2011.09.20


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