私の授業でだけ問題児


またいつもの如く、熱い視線を感じる。あいつは授業を聞く気はないのか、と苛立ちを感じるも、彼はあんな顔をしていてもしっかり私の話をメモしているから、文句は言えない。板書を終え、説明をする間も廉造はずっとこちらを見ている。にこやかな笑顔を浮かべながら。


「……奥村君、起きてください。それから志摩君は…、」


寝ている奥村君と一緒に廉造にも注意しようとしたのだが。なんて言えばいいのだ?ノートをとれ、と言ったところで、彼はしっかり余計なことまでメモしているのだ。教科書を見ろ、と言っても、私の授業ではほとんど使わないし。こっちを見るな、と言っても、ほんなら板書写せへんですわ、と言い返すに決まってる。結局何も言えない。廉造の思惑通りっていうのがカンに障る。


「…何でもないです。奥村君は早く起きてください。次行きますよ。」


うたた寝している奥村君に、隣の杜山さんは慌てて起こそうと奮闘しているのだが。奥村君の睡魔は強いらしい。まあいいか、と講師らしからぬ考えを持ち、授業を進めた。





廉造は本当に、私の困った顔を見るのが好きなんだと思う。塾の後、寮まで一緒に帰ろ、と待っててくれた廉造を見て思ったのだ。鍵一つで自室まで戻れるのだが。きっと今日も買い物に付き合ってくれるつもりなのだろう。


「ねえ廉造、なんであんなにちゃんとノートとってるのに、いつもテストひどいの?」
「テスト中名前の方見とると、俺が問題解く前に終わってまうんや。」


やばい。この人相当阿呆だ。まさかの発言に意表を突かれた。


「あ、えーっと…解き終わってから…見ればいいんじゃないかな?」
「見ててええの?」
「…別に、いいけど」
「え?よお聞こえんけど?」


調子に乗った。ニヤニヤする廉造。くそう、と悔しくなって、ピンクの頭を軽くはたいた。


「痛い…」
「ざまあみろっ」


ふん、と言って先を歩く私。すると廉造が後ろから手首を掴んできた。そして思いっきり力を入れる。


「いたっ」


すぐに手は離れて行った。目の前にはにやついた廉造の顔。


「授業しとる名前も好きやけど、痛がってる名前が一番かわええ。」


ダメだ。この人、末期だ。若干引く。でも、痛いのは嫌、って照れつつも廉造に言う私も、なかなか末期なのかな。


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話にまとまりがなさすぎ!

2011.09.17


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