申し訳ないとは思います


「名前、」


百パーセント色気で出来ている声で名前を呼ばれると、ぞくりと身体中が粟立つ。ベッドの上ではいつもそうだ。始まりの合図に、私はごくりと喉を鳴らす。廉造の垂れ目が私を見下ろしていた。


「ん、」


甘い吐息が混じり合う距離で、キスをされて、それから黙って見つめ合って、またキスをされる。この時間が一番幸せだと、心底思っていた。


そんな中でも、ピリリと鳴る、非情な無機的音。私はがばっと身体を起こし、テーブルの上に置いてある携帯に走った。


「はい!」
『おー、名前?今暇?悪魔退治頼みてえんだけど。』


暇ではない。久しぶりの甘い時間を過ごしていた。でも仕方ない。電話の向こうのシュラさんに、了承の返事をし、会話を交わす。ちらりとベッドの方を見ると、不機嫌極まりない廉造が鋭い視線をこちらに向けていた。私は慌てて背中を向けた。


『じゃあ待ってるからな〜!』


電話が切れた後も、気まずくて廉造の方に振り向けなかった。どうしよう、と考えを巡らせたところで、後ろから抱きすくめてくる廉造。まるで、行かないで、と言ってるようだ。


「廉造、ちょっと…行ってくる。」
「嫌や。」
「お願い、離して。」
「嫌やて。俺のそばにおって。」


耳元で囁く彼の声に、ぞくりと身を震わせた。そばにいたい。でも廉造のために祓魔師の任務を怠ることはならない。


「…すぐ戻って来るから、ね?」


あやすように言うと、廉造は更に私の耳に口を近付けたようだ。彼の吐息がダイレクトに感じる。なんて甘いことを考えていると、耳の中に舌を入れられた。


「ひゃっ!?」
「名前…行かへんで。」


ずるいずるい。私は強く目を閉じ、耳への愛撫に耐えた。右の耳に水音が響いた。たまに名前を囁く。廉造と一緒にいたい。いたいんだよ。


「…嘘や。」


廉造が離れて行った。身体も解放され、私は思わず廉造に振り返った。すると彼は優しい笑みを浮かべている。


「待っとるし、早よ帰って来てや。」


廉造はいつもそうだ。最初は行くな、と言って私を困らせるくせに、結局離してくれる。笑顔で送り出してくれる。日々の感謝を篭めて、私は一瞬だけ、廉造の唇に自分のを重ねた。珍しい私の行動に、彼は意表を突かれていた。


「行ってきます。」


―――


恋人の営みを任務に邪魔されてお預けになることもしばしば(笑)
そしてシュラさん言葉分からない

2011.09.15


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