たまには優しい


浮気現場、とまではいかないが。何故ここに廉造がいるのだろう。そして隣で笑う彼女は誰なのだろうか。


今日も任務を終え、買い物をした後、部屋に戻ろうと寮の前の道を歩いていたのだが。前方に微笑み合う男女。立ち話をしているらしい。男の方は廉造なのだが、女の方は見たことがない。きっと同級生だろう。はっきり言おう。私は明らかに彼女に嫉妬していた。そもそも廉造は私以外の女性には基本優しい。優しさの塊だと言えるくらい、紳士だと思う。たまにセクハラ発言をしているが。しかし私に対してはいつも意地悪だ。と言うより、自分勝手と言う方が正しいかもしれない。


「ほな、また!」


立ち止まってそんなことを考えていた私に気付いたのか、廉造は女の子に別れを告げた。私は慌てて二人の横を過ぎ去り、部屋へ急いだが。


「おかえり〜。」


何事もなかったように隣に並んだ。そして今日の買い物袋を持ってくれる。何だか悔しくなって袋を取り返そうとしたが、届かなかった。


「名前待っとったんに、捕まってもうた。」


あっはっは、と軽く笑う廉造に少し苛立ちを感じる。彼は気付いているのだ。気付いていて、わざと言っている。


「気にしなくていいよ。もっと一緒にいたら?」
「せやけど名前帰って来よったんやし。」


何その言い方。まるで私が帰って来たから邪魔された、みたいな。だったら私の帰り道でいちゃいちゃするのやめてよ。


「今日なあ、坊がラブレターもろてん。」
「ねえ、廉造。」


会話が噛み合わない。結局私達はすれ違ってばかりではないか。私は無邪気に笑う廉造から買い物袋を引ったくり、彼を見上げた。


「無理に私といなくていいよ。廉造、女の子大好きなんだし。」


思いっきり嫌みだ。廉造に嫌みがきかないことは承知の上だが、それでも言わなきゃ気が済まない。


「え?それて、浮気してもええ、ちゅうことなん?」


廉造は私の手首を掴み、顔を覗き込んだ。突然の接近に驚いて、思わず身体を強張らせた。廉造はいつにも増して、眉を下げている。凄く不安そうな表情。なんて答えて欲しいのか、なんて全然分からない。


「……やだ。」
「せやな。名前ならそう言うて思たんや。」


また軽く笑いながら、再び私の手から買い物袋を奪った。


「あ、ちょっと!」
「ヤキモチ妬いとったんなら、素直に言えばええのになあ。」
「うるさいよ、廉造。いいから袋返してよ。」


袋を取り返そうと伸ばした手は、廉造の手の中に収まっていた。くそ、やられたと思いながらも、振りほどくことはしない。


「そないに俺と手ぇ繋ぎたかったん?しゃあないなあ。」
「しゃあなくないから。袋返して。」
「年下でもれっきとした名前の彼氏や。重いモンくらい代わりに持つで。」


私は複雑そうに顔をしかめてから、廉造と繋ぐ手を、ぎゅっと握った。


―――


たまには優しいことも

2011.09.14


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