焼却炉行き願います


そもそも、苗字家では年功序列の考え方が当然で、年上は敬わなければならない、と教えられてきた。つまり、廉造の態度は如何せん認める訳にはいかない。


「名前、」
「“さん”を付けなさい!敬語も!私は年上だよ?」
「年上かて、彼女やん。」
「彼女である前に、年上です。」


凛とした態度を崩さない。少しでもボロを出すと、すぐさま廉造にペースを奪われ、上手く丸め込まれる。年上として、それは癇に障るのだ。


「そないなことより名前、制服着てや。」
「はあ?」


ちなみに今私は自室で塾の授業の準備をしている。一番聞いて欲しい人に聞いてもらえない授業だ。やっていて、虚しくなる。そして当の廉造はいつものようにベッドに寝転がっている。官能雑誌は全て本棚に仕舞われていて、今日は読んでいない。そこでの突拍子のない発言に、私のペースは狂うのだ。


「なに、いきなり?」
「去年まで正十字学園通っとったんなら、制服まだあるやろ?俺のために着て見せてや〜。」
「嫌。」


廉造に向けた視線を机に戻した。すると廉造は立ち上がって、私の椅子の傍らに立った。


「けど持ってるやろ?」
「……持ってない。」
「嘘ついたな?俺こないだ見たで、名前のクローゼット。」


勝手に漁るな!、と廉造に怒鳴るつもりだった。しかし、横を向いた瞬間、廉造は机に手をついて私の顔を覗き込んでいた。つまり、物凄く顔が近い。至近距離でにこにこと微笑んでいた。自然と肩に力が入った。逆に怖い、と思い、私は少し離れようとしたのだが。


「嘘はあかんえ?」


苗字家は年功序列制度だ。この私が年下に負けることは許されない。だけど、廉造にだけは敵わない。


「…持ってる。でも着ない!」
「せやけどさっき一回嘘つかはったしなあ。」
「う……今度アイス買ってあげるよ。」
「子供扱いせんといてや。俺は制服着て欲しいだけなんやて!」


随分必死だなあ、廉造。だけどこちらは数ヶ月前とは言えど、卒業した身。気が引けるのは致し方ない。制服を焼却炉に放り込みたくなった。


「…俺、名前と一緒に学園行ったことあらへんのですよ?他の男は名前の制服姿見れたのに、俺だけ見れへんのはおかしい。」


まず、あなたの頭がおかしい。でも確かに、私はいつでも廉造の制服姿を見れるが、逆はない。恥ずかしいのもやまやまだが、ここは我慢してあげるべきか。それに、いつもは雑誌の中の制服の女の子にウハウハしている廉造が、珍しく私を見てくれてる訳だし。溜め息をつき、決意を固めたのだが。


「祓魔師の制服も萌えるけど、学園の制服はもっと萌えるで、きっと!」


脳内で勝手に妄想を膨らませる廉造に、やっぱり制服は焼却炉に持って行こう、と思った。


―――


2011.09.10


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