写真はずるい


テストの問題を解く。それが今、祓魔塾の生徒のすべきことである。本来教室の中にいる生徒達はテストに向かい、黒板の前に座る私からは頭のてっぺんしか見えないはず。ならば何故、あのピンクの頭はてっぺんは見えないのだろうか。いや、それよりもまず、何故あのエロ魔神は満面の笑みを私に向けているのだろうか。あいつの垂れ目は、意味の分からない無駄な笑顔によって目が線になっているが、確実に私を見ている。


またか、と内心盛大な溜め息をついた。


「はい、そこまで。」


私の声と共に、机に筆記用具を置く音が発せられた。生徒の答案用紙を一枚ずつ集める。やはり勝呂竜士と神木出雲は空欄がない。奥村燐は三割も埋まってないが、試験に向かう姿勢は大いに合格。問題は、あいつ。


「志摩くん、これどういうことですか。」


苛立つ声を、帰り際の廉造に投げ掛けた。すると、彼は教卓の前に立ち、私と向かい合った。


「志摩、先帰っとるで。」


勝呂くんの声を背に、教室の扉は私たち二人を中に残したまま閉まった。教卓を挟んで至極笑顔の廉造。こっちは怒ってるんだぞ。


「志摩くんどういうつもりかな?テスト、白紙なんだけど。」
「名前書きましたやん。」
「胸を張って言えることじゃないからね?分かってんの?」
「分かっとりますよ。とりあえず、今二人きりなんやけど?」


笑顔って恐ろしい。廉造の放つ笑顔は更に恐ろしい。廉造は、何かと私に要求をする。とりあえず絶対的な約束は、名前呼び。私は既に正十字学園を卒業した身だから、一緒にいられるのは塾の日だけ。しかし祓魔塾では講師と生徒。人前では名前で呼び合うことは出来ないから、せめて二人きりの時は、と約束をした。破ればお仕置き。何と言うベタな展開だ。まあエロ魔神だから仕方ないのかと、甘く考えた私がいけなかった。


「今私怒ってるの、分からないの?」
「分かるで。せやけど、約束は約束や。説教なら後でぎょーさん聞くさかい。」


廉造は教卓を避け、私の前まで来た。よくこんな状況で言えるよな。ほんと、図太い神経をしていらっしゃる。


「キスしてや。」
「ええ!?む、無理だよ!」


いつもは勝手にキスをしてくる廉造。何故急に私からになった?いや、おかしい。そもそも無理だ。恥ずかしい。


「早よしい。」


なんて強気な奴だ。今の廉造を見て、彼が虫が無理だなんて誰が思うだろう。


「……分かったわ!すればいいんでしょ!早く目つぶって!」


廉造は緩んだ顔を引き締め、真顔で目を閉じた。悔しい。いつも余裕そうで。そして恥ずかしい。私は意を決して、自分の唇を廉造に近付けた。その瞬間、後頭部に力を感じ、思いっきり廉造の方に引っ張られた。驚きのあまり、口は開けたままで。侵入してきた廉造の舌を感じながら、くそ、やられた、と悪態をついた。


その時、パシャリという無機質なシャッター音が耳に響いた。


私は驚いて廉造から飛びのいた。まさか誰かに見られたのか、と平常心を失いかけたが。


「かわええなあ。」


自分の携帯を見ながら鼻の下を伸ばす廉造に、私は絶句。


「え、ちょ、廉造?」
「見てみ〜?このハイクオリティー、待ち受け決定やわ。名前も欲しい?」


私の前に画面を見せる廉造。そこには私と廉造のキスシーンが鮮明に映し出されていた。私は真っ赤になって目をつぶっている。そしてよく見れば、舌が絡まっているのも見受けられる。


消せー!、と叫んだ後、廉造の携帯からその写真は削除したはずなのに、寝る前に携帯を開いたら、写真を添付したメールが届いていたのには、絶叫した。


―――


2011.09.06


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