相合い傘て肩触れるで
授業も終わり、寮に戻ろ思たんやけど。子猫さんの言った通り、雨降っとりますやん。子猫さんがどっかから調達しはった傘で、皆で帰ろ思た時や。空に閃光が走りよる。雷や。
「ひどい雷やな。」
「怖いんですか、坊。」
「黙っとれ志摩。」
目を細めて笑うと、坊が目付き悪い目で睨んできはった。おお怖!俺は雷より坊の目の方が怖いなあ。それに否定せえへんのですね、坊。
「あ。」
「どうしはりました?」
子猫さんが傘をさそうとしはった時。思い出したで。思い出した。名前との約束。戻らな!
「すんません、二人とも。俺ちょお用事思い出したんで、先行ってください。」
返事を待たずに、ぴゅーと踵を返してさっきの教室に戻る。少し汗かいてもーた。あーあ。教室には思た通り、名前が頭を抱え込んで身を縮めとった。
「名前、大丈夫か?」
名前はぱっと顔を上げよる。めっちゃ怯えた顔。あー、やってもた。怒鳴られるー。やけど予想に反して名前は俺に抱き着いてきはった。ちょ、ちょ、何?何やの?
「あー…、名前?」
「怖かった…雷怖かった。」
俺の制服に引っ付きよる名前。かわええなあ。俺も腕を名前の後頭部に回し、自分の方に引き寄せた。わー、俺今幸せや。
そや、約束いうんは、昔名前と交わした幼い約束のことや。虫さん怖くて往生しかけてた俺を助けてくれはった。ま、当然のごとく俺をヘタレ言うて馬鹿にする思たんやけど。名前は笑って、あたしも雷ダメなんだ、お互い様だよ、と言ってくれはった。小学校の頃のことや。まだ名前が越して来て日が浅かった気がする。それから俺たちは虫と雷でお互いを助け合うようて約束して。それは今でも続いとる事なんやな。腕の中の彼女を見て、そう思た。
「ん、志摩ありがと。も、大丈夫。」
小さく言い、俺から離れよる。も少し抱きしめとりたかったんやけど。そないなこと言うたらきっとしばかれる。
「志摩傘ないんでしょ?入れてあげるよ。」
名前は鞄を持ち俺の手を引っ張った。名前の傘に入れてもらえる。初めてや。名前の、その、“好きな男”のための折り畳み。嬉しいような、悲しいような、複雑やな。
「男子寮まで送ってくよ。」
「ええよ、そないなことせんで。」
「だって志摩ちゃんと戻って来てくれたじゃん。だからお礼。」
「ええって。なんで男の俺が送られなあかんの。」
名前の持つ傘を奪い、俺が持った。この身長差、ええなあ。
結局女子寮まで送った後、名前が傘貸してくれはった。明日返す言うと、名前はありがとうと笑っとった。
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