12


何故こんな物を買ってしまったのだろう、と子猫丸は自分の手の中にある一つの袋を見て、後悔した。可愛いらしくラッピングされたピアスである。結局例のショッピングモールには一人で行き、女性用の小物ショップには酷く不釣り合いな子猫丸は、何とも言いがたい羞恥を覚えた。しかし渡してしまえば忘れられる、と意気込んで雨の日用の集合場所に向かうのだが。


雨の日用の集合場所は、この間名前が泣いた屋根のある場所。人気もなく、二人きりになれる場所なのだ。そこで先に待つ名前を見付けると、目が飛び出るような感覚に襲われた。名前の髪が真っ黒に変色していた。全く目立たない。


「苗字さん!?」
「あ、三輪君。」


慌てて駆け寄る子猫丸。何事かと不安そうにする彼に、名前は軽く笑みを見せた。


「どないしたん!?その髪…」
「黒くてもいいかなーって。」


寂しそうに笑い、弁当の蓋に手をかけた。子猫丸は名前の隣に座り、黒くなった髪を見つめた。微かに見える耳にも、何も付けていない。


「黒くても、きっと三輪君は見失わないでくれるでしょ?」
「苗字さん…」


切なそうに目を細めた彼女に、子猫丸は胸を締め付けられた。まさか彼女の染髪が友人の勝呂のせいだとは思わなかったが。手に握られた袋を、力強く握った。


「三輪君?」
「これ、あげます。」


くしゃりと不格好になった小さなリボン。


「え?くれるの?ありがとう。」


そのリボンを解くと、中から小さなピアスが出てきた。パープルのスワロフスキーのピアスだ。


「それ、偉い悩みました。苗字さんの髪に似合うようにて、色々考えました。」


名前は子猫丸の言葉を耳にしながら、手の中のピアスを見つめていた。


「なんで染めはったん?そのままの苗字さんがええて、僕言わへんかった…?」


パープルは、金の髪に映えたであろう。きっと金髪の隙間から見えるピアスは、とても綺麗であっただろう。それを考えてこれを贈ってくれた子猫丸に、名前は思わず抱き着いた。


「苗字さんっ!?」


ぎゅうっと抱き着く彼女に、子猫丸は両手の行き場を失う。二人きりの空間で、なんだか甘い雰囲気を感じずにはいられない。子猫丸と言えど、健全な男子高校生だ。


「…ありがとう、三輪君。」


胸元辺りで声を絞り出した名前に、愛しさを感じる。同時に鼓動の速さも。


「もう一回、金髪にするね。三輪君が私のことを見失わないように。」


もう勝呂や志摩に何と思われてもいい、と吹っ切れていた。子猫丸がいてくれたら他の人にどう思われようが構わないのだ。


「三輪君…、子猫丸、大好き。」


自分の胸に抱き着く彼女。子猫丸は突然の名前呼びに驚きつつも、顔が緩まった。名前に見られたくて良かった、と思いながら、行き場を失った両手は名前の後頭部と背中に落ち着いた。


「僕も、ですよ…名前さん。」


自分の名前がやけに神聖な物に思える。抱きしめ合いながら、二人は同じことを考えていた。





結局名前が黒髪だったのは、たった一日。次の日からはまた金髪でミニスカ。しかし変わったのは耳に付けたピアスの数。穴はたくさん開いてるのに、両耳一つずつパープルのスワロフスキーが輝いていた。


「結局不良やないか!苗字!」
「不良でもいいでしょ!ね、子猫丸。」
「そうですよ。名前さんは名前さんのままでええんです。」


目の前で微笑み合う二人に、勝呂は血相を変えて怒鳴る。しかし志摩は、ついに子猫さんにも彼女が…と半泣き状態で机に突っ伏していた。


―――


今回の子猫さん、やけに積極的でしたね〜
しかも貢いでるし
でもあのお店で子猫さんが夢主のためにピアス選んでる…
とか考えると鼻血もの

台風のおかげで完結しました!

2011.09.21


[ 45/63 ]

[] []