最近、周りからの視線が痛くなったのには、子猫丸も気付いていた。しかし何も知らない振りをして、芝生での昼食を楽しみにしていたのだが。


「…雨。」


子猫丸は教室の窓から外を見て、寂しそうに呟いた。それを教室内から勝呂と志摩は眺めている。


「やばいんとちゃいます?子猫さん。」
「せやなあ…」
「あんなナリやけど、一応三輪家当主ですよ?」
「知っとるわ。」
「今の子猫さん見たら、おっさま何て言いはるんやろ…」
「あいつは問題やない。どっちかっちゅーと、問題なんは八百造の方や。」
「お父かあ〜…!」


二人の会話に気付くことなく、子猫丸の視線は降り注ぐ雨に向けられいる。昼までには止んでほしい、と心底願うのだが。


空は思う通りにはならなかった。





昨日志摩に言われたことが、思ったよりも深く根付いていた。あの様子だと、きっと勝呂も同じようなことを考えているのだろう。名前は溜め息をついた。しかし今日の雨には感謝している。子猫丸には会いたくなかった。


懐かしい一人の昼休み。名前は購買に向かう途中の渡り廊下で女の子達に囲まれていた。ルームメートの友達もいる。


「調子乗ってるね。」
「そう?私、購買行きたいからそこどいてくれる?」


いつもは更衣室や女子トイレなど、周りからは見られない場所で文句を言われるが、こう開けた場所で言われるのは初めてだ。開けた、と言っても廊下から壁を挟んで外側のここは、全く視界には入らない。しかし直接廊下に繋がっているため、声は届くのだ。廊下を歩く大勢の人には聞こえないように、リーダー格の女の子は名前に言った。


「あんた、気に食わない。」
「奇遇だね。気が合うみたい。私も気に食わない。」
「あんたさ、一人でいる方が得策だと思うよ。」
「勝呂君や志摩君が何て言ってるか知ってる?」
「早く三輪君から手を引いてほしいって。」


周りの女の子も小さな声で言う。そんなに見られたくないなら、やらなきゃいいのに。しかし、勝呂と志摩の話には心が揺さ振られる。子猫丸の友人には、どうしてか、認めてほしかった。名前の表情に曇りが見えた時、リーダー格の女の子は突然その場に倒れ込んだ。


「痛ッ!」


目の前が真っ白になった気がした。大きな声を聞き付けて、廊下の人達が渡り廊下に出て来る。勝手に倒れ込み、片手で赤くもなっていない頬を包む彼女と名前を囲むように野次馬が次々とやって来る。


たくさんの視線と声が向けられる中、野次馬の中に目立つ三人組を見付けた。小柄な彼は、購買のパンを抱えて、驚いたような、微かに恐怖も織り交ぜたような表情で、名前を見ていた。


―――


2011.09.21


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