一日の中で一番楽しいと思う昼休みも終わり、午後の授業も乗り越え、人が疎らとなった放課後。何の部活にも所属していない名前はぼんやりと廊下を歩いていた。ふと、床にキラリと光る何かを見付けた。本当に自分は、落とし物に出会う確率が高い、と名前は思う。子猫丸のストラップも、目の前で落とし物に変わったこともあったし。名前はそれを拾い上げた。それは小さな鍵だった。また誰かが困っている、と小さく溜め息をついた時、横の教室の扉が開いていて、中でピンクの頭がひょこひょこ動いているのが見えた。鍵と彼を見比べる。もしかしてこれを探しているのかもしれない。名前は教室の中に入った。


「志摩君。」
「!?」


驚きのあまり、志摩は顔を上げた。教室には志摩しかいなかった。名前の姿を見るなり、志摩は嫌そうな顔を見せた。女好きの志摩には珍しい表情だ。


「ね、もしかしてこれ探してる?」


そう言って彼女は持っていた鍵を差し出した。志摩は慌ててその手から鍵を引ったくる。祓魔塾へ繋がる、大切な鍵なのだ。警戒心剥き出しの志摩に、少し嫌気がさす。


「な、なんであんたが…!」
「廊下に落ちてたから拾ったの。」


志摩の様子から、自分が酷く嫌われていることに気付く。微かに胸を痛めながら、名前は踵を返した。


「苗字さん!」


まさかの呼び止めに、名前は振り返った。しかし投げ掛けられたのは残酷な言葉。


「あの…、無駄に子猫さんに近付くん、やめたってください。」
「え…」
「子猫さんかて、そう思てるに決まっとります。」


志摩の真剣な言葉は、胸に突き刺さった。最後に、鍵はおおきに、と言って教室から出て行った。名前は一人になった教室で肩を落とした。


志摩が大事な友達のために言ったのは良く分かった。自分でも考えたことはあった。子猫丸は名前の隣にいるべきではないのだ。


「……三輪君…」


名前は教室の窓越しに外を見た。夕焼けの中で、小さな雨雲が遠くにあるような気がした。


明日が来なければいい、と心が悲鳴を上げたのは、子猫丸と出会ってからは初めてだった。


―――


2011.09.21


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