虫さんおる!無理や!


おかしなことになっとる。なんでや。なんでこんなとこに点滴が。あ、ちゃう、天敵や。奥村くんみたいなアホなミスしよった。そんなんどうでもええねん。虫や。虫さんがおる。どないしよ。とりあえず涙が込み上げてきよった。俺ここで死ぬんかな。ここが俺の墓や。


「教室の前がお墓って可哀相だね。花飾っといてあげるよ。」


び、びっ、びっくりした!なんでおんねん。あ、授業同じやからか。けど助かった!


「名前ー!助かった!これ!これ何とかしてや!」


俺は扉に引っ付いた虫を指差して叫んだ。すると名前はにこりと微笑んで取ってくれはった。あれー?なんや素直に。気持ち悪いなあ。


「はい、もう大丈夫。」
「なんやえらい優しいやないか。何かあったんか?」
「はあ?あんたねえ…、」


大きく溜め息つきはった。なんやねん失礼なやっちゃなあ。


「約束したじゃない。」


約束?何の?しよったっけ?名前はすたすた教室に入って行きはった。なんやねん。がりがり頭を掻いて俺も教室入った。坊の後ろに座り、考えたんやけど、分からへん。名前の後ろ姿を見とったら、坊が後ろ向きはった。子猫さんも。


「志摩今日傘持ってきとるか?」
「なんやー、坊、俺が持ってきとる思てはりますの?」


ほへー、といつもの調子で言えば、二人揃って溜め息つきはる。なんや皆して。溜め息流行っとるん?


「まあそう思とったがな。」
「今さっき見たら雨マーク出とったんですよ。朝は晴れマークやったのに。」


あらま。そら困りますなあ。どないしよ。あ、でもこれはチャンスやで。相合い傘するチャンスや。


「またしょうもない事考えとりますね?」
「聞き捨てならんな、子猫さん。あ、名前持ってはりますよ。知っとります?あいつ小学校の頃から、好きな人が傘忘れはった時に自分が入れたる言うて、炎天でも折り畳み持参しとるんや。わろてしまうやろ?」
「笑えませんよ、志摩さん。」
「せやな。名前の傘にはお前が入れてもらえ。」
「えー?有力な情報や思たんやけどなあ。俺は大丈夫やで。出雲ちゃんに入れてもらいますから。」


向こうから尖ったシャーペンが飛んできよった。出雲ちゃんツンデレやからなあ。相変わらずニコニコしとると、名前の後ろ姿が目に入りよる。めっちゃ怯えてるように肩を震わせてはるのは、気のせい?


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