寮でルームメートの子は、表面上の付き合いだった。部屋では、その日あった出来事を話したり、噂話に花を咲かせたり、友達のように接してはいたが、部屋を出れば他人なのだ。その子は、表面上では名前を想う様子を見せるが、本心ではやはり関わりたくない。それに気付いている名前も、何も言わずに表面上の付き合いを続ける。彼女が裏で、有ること無いこと言い触らしているのも、名前は知っていた。


だから名前は、子猫丸の話は教えたくなくて黙っていた。しかし、ただでさえ目立つ名前の行動に、あの子猫丸が加わったとなると、女の子達の話はそれで持ち切りだ。ルームメートの子は、他の女の子達との会話のネタにすべく、名前に尋ねた。


「名前ちゃんさ、最近三輪君と仲良いんだって?」


極力棘のない言葉を選び、何気ない様子で尋ねる。名前は彼女の方を向き、すぐに顔を背けた。風呂上がりの彼女の髪は、タオルに染みを浮かべた。


「…うん。」
「どうやって仲良しになったの?」


子猫丸は一部の女の子から人気を集めている。男子高校生には珍しいあのかわいらしいフォルムに加えて真面目な性格。奇抜な髪をした勝呂と志摩に挟まれて、柔らかく笑う彼に、恋に堕ちるとまでは言わなくても、仲良くなりたいと思う女の子は少なくない。そんな子猫丸にどうやって付け入ったのか、とでも言うように、彼女は名前に詰め寄った。女子同士の恋ばなを装っているつもりなのだろうか。しかし、彼女が明日、自分から聞き出した話をクラスメートに言い触らす姿が容易に想像できる。彼女の友達には名前を嫌い、イジメとは言わずとも、小さな嫌がらせを繰り返す女の子達もいる。自分の立場が悪くなるのは、いただけない。


「……秘密。」


考えた揚句、出てきたのは説得力の欠片もない小さな言葉。ごまかすことは出来なかった。


「ええ〜!教えてよっ!」


名前は聞こえない振りをして、髪を乾かすためにドライヤーのスイッチを入れた。大きな音が部屋に響き、無理矢理話を終わらせた。金の髪が熱風になびく。三輪君は坊主だからドライヤーは使わないのかな、と考えると名前の口元が緩まった。髪を乾かしながら、名前は明日の昼休みのことを考え、胸を躍らせていた。


―――


2011.09.21


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