それから毎日、昼休みだけは一緒にいるようになった二人。勝呂や志摩、出雲に朴まで子猫丸のことを心配していた。携帯についている猫のストラップまでもが、不安の輝きを放っている。勝呂と志摩は昼食前に、真相を暴くべく、子猫丸に詰め寄った。


「子猫丸、正直に言い。弱み握られたんか?」
「そないなことあらしませんよ。」
「せやかて、あの不良女ですよ〜?ほんま大丈夫なん?」
「大丈夫ですて。坊も志摩さんも心配し過ぎなんです。苗字さん、普通の女の子ですよ。」


穏やかに言う子猫丸に、勝呂と志摩は顔を見合わせた。最近の子猫丸は見るからに浮かれている。らしくないのだ。


「坊〜、どないしますの?」
「どうもこうも…、ほっとくしかないやろ。」


子猫丸と名前は不釣り合いだと誰もが思う。勝呂には優らずとも、子猫丸は昔から真面目で努力家で、周りのことをよく見る出来た人間なのだ。そんな彼が何故あの柄の悪い不良女と昼を一緒に過ごすのか。周りは心配する他ない。


「ほな、失礼します。」


子猫丸は今日も不良少女の元へ向かうのだ。





頂きます、と言って合掌。名前は礼儀正しく、その横顔に見入ってしまうのも毎日のこと。


「三輪君、いつも食べ始めるの遅いよね。」
「あ…すんません。」


慌てておかずを口に詰め込む子猫丸に、名前は自然と笑みを浮かべた。しかし、彼女の笑みもすぐに消え去り、箸も止まった。


「いっつも謝ってばっかり。」
「え?そないなこと、」
「どうして三輪君は、私と一緒にいてくれるの?」
「それは…」


子猫丸も箸を止め、言い淀んだ。なんて答えればいいのか分からないのだ。勝呂達にも言われたことはあったが、適当に流していた。本人に聞かれると、何故かごまかすことも出来ず。


「…僕にも、分からへんよ。」
「分からないの?」
「分からへん。けど僕は、苗字さんは、普通の女の子や思てます。」


子猫丸は視線を弁当から名前に向け、優しい笑顔を見せた。眼鏡越しの彼の目は、柔らかく弧を描いている。名前も、そっか、とだけ返事をして、緩まった口元を隠すように、箸を動かした。


―――


台風で休校

2011.09.21


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