子猫丸は芝生に正座をした。それを近くから心配そうに見守る勝呂達。子猫丸は深呼吸を繰り返す。その時、視界の隅に名前が映った。片手に弁当を持ち、こちらに走ってくる。そして子猫丸の前に気まずそうに立った。


「……ど、どうぞ。」
「うん、ありがとう。」


名前は子猫丸の隣に座り、膝の上に弁当を置いた。


「頂きます。」


礼儀正しく、合掌する名前に視線を奪われる。子猫丸は購買で手に入れたパンを手には持つが、口には進まない。


「少年食べないの?」
「僕の名前、“少年”やないですよ。三輪子猫丸言います。」
「知ってるよ。」


思わず転びそうになる。だが、知っていて良かった、と胸が暖かくなった。


「少年、人気だもん。」


少年呼びをやめてほしい、と率直に感じた。そして、その謎の子猫丸人気話。名前は更衣室やトイレで、女の子達が子猫丸の話をするのを耳にしていた。


「その少年言うん、やめてください。」
「じゃあなんて呼べばいいの?」


この人はずるい、と子猫丸は珍しく顔を赤くした。周りは普通に名前で呼んでいるから、自ら呼んでほしい、とは言ったことがない。


「えと…、」
「三輪君。」
「あ、はい。」
「ありがとね。」
「え!?」
「ご飯、誘ってくれて、ありがとうね。」


微笑む名前を尻目に、子猫丸はようやくパンを口に運んだ。名前はもうすぐで食べ終わる。なんだか緊張が解けてきて、子猫丸は思ったことを口にした。


「苗字さん、どうして髪の毛、染めたんですか?」
「あー、これ?迷子にならないように。」


パンが喉に引っ掛かった。むせていると、名前は心配そうに大丈夫?、と尋ねた。


「だ、大丈夫です。そないな理由で染めはったん?」
「そうだよ。大切な人達が、私を見失わないように。」
「せや、そのピアスは?」
「これはね、大切な人から貰ったピアスをつけるため。みんな、ピアスくれるからさ、その分穴開けなきゃでしょ?」


そんな理由があったのか、と内心納得。恐そうなのは、本当に外見だけであって、中身は普通の女子高生なんだな。名前はただの寂しがりやなのだ。だから自分を忘れてほしくなくて、外見を飾り立てる。友達がいないのも、本当は寂しいのだ。だから子猫丸からの誘いに、嬉しそうに返事をした。


「でも勝呂君とか、志摩君とかも凄いよね。」
「あはは…まあ、そうですね。」


名前は完食をした弁当箱の蓋を閉じ、ごちそうさまでした、と合掌する。再び子猫丸はそれに目を奪われる。


「三輪君、食べるの遅いよ。」


そう言って微笑む金髪の彼女を見て、子猫丸も頬が緩まった。大人しい性格の彼と不良少女の微笑み合いは、周りから見れば異様な光景だった。


―――


2011.09.20


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