正十字学園にも、こんな生徒がいるのかと、誰もが思った。名門校には目立つ金髪。下着が見えそうなくらい短いスカート。それからピアス。ド派手なピンク頭の志摩よりも奇抜な髪。ピアスの穴は勝呂にも負けていない。十分目立つ二人よりも更に目立った少女の名前は、名前。


「ほえ〜、また凄い格好やね、苗字さん。」


授業の合間の休み時間。教室外の廊下を歩く彼女を、志摩は机に肘を付け、ぼんやりと呟いた。隣に座る勝呂も不機嫌そうに相槌を打った。


「ほんま、なんちゅう女や。」
「いや…、坊も志摩さんも、人のこと言えへん思いますけど。」


三人の中で唯一真面目な外見をしている子猫丸は、小さく突っ込みを入れるが。二人は聞き入れてくれなかった。


「ま、どうでもええけどな。」


そう言って、勝呂は自分の暗記ノートに目を落とした。志摩は相も変わらず群がる女子に目を向けて、だらし無く顔を緩めている。


「ほな、僕トイレ行って来ますわ。」
「迷子にならへんよにな〜、子猫さん。」


同い年の幼なじみに子供扱いをされ、子猫丸は臍を曲げる。珍しく志摩の言葉を無視し、教室から出た。


正十字学園はお手洗いさえも綺麗。どこかの高級デパートのようだ。デパートと言えば、京都の駅には伊勢丹があったなあ、と思い出す子猫丸。故郷を惜しみながら、お手洗いの扉を開けようとした時。丁度中から人が出て来て、鉢合わせ状態になった。


「……え。」
「え?」


子猫丸の前に立ち塞がったのは、先程の話題に上がった名前。なんで男子トイレから…、と子猫丸は真っ青になる。


「苗字さん…?」
「…少年、いくら君が可愛くて女の子から人気だからって、女子トイレに入るのは良くないと思うよ。」


驚きの余り、子猫丸はのけ反る。慌てて確認すると、本当に自分が開けようとしたのは女子トイレの扉だった。


「あ…、あ、す、すんませんっ!」


子猫丸は色々恥ずかしくなって、隣の男子トイレに駆け込んだ。明らかに自分の不注意だ。京都のことを考えていたからだ!、と頭を抱え込む。


そして初めて名前と言葉を交わした。皆が恐れる不良少女は、案外普通の人なのかもしれない、と子猫丸は安堵の息を漏らし、同時に微かな胸の高鳴りを感じていた。


―――


2011.09.19


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